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出会い

孝慈帝(こうじてい)が即位してまだ数年。 国中のΩ(オメガ)が王宮に集められた。 内々に公示された皇帝(こうてい)(つがい)を探す為に。 僕は辺境の小さな村で、自然が豊富と聞こえはいいが何も無い所で茶の栽培をしながら村の神社で奉納舞をし、母と二人で生計を立てていた。この世界にある、人間の血液型のような属性について、初めて勉強したように思う。 αは村長が一人いるだけ。残りは村人全員β(ベータ)の中、僕は村でたった一人のΩだった。 村にはΩが僕しか居ないから一人で旅をし、王都から城に入るのも一苦労だった。 早朝に着いたが、門番にはまだ誰も受け入れないと中にも入れて貰えず、寒空の中入り口で待とうとしたら邪魔だと棒で打たれ追い払われた。 丁度そんな時、城から出る所だった天雨さんに助けられた。 門番を一喝して僕を庇い、城の中を案内してくれた。 棒で打たれ腫れた所を見咎めれば、侍医室まで連れて行き手厚く介抱してくれた。 王宮で乱暴されたΩもいたからと侍医の先生から避妊薬や抑制薬を渡され、その注意点等も教えられた。 「まだ少し時間があるなら」と、部屋に招待されお茶までご馳走になった。 飲みながら、お互いの身の上も話したりした。 「肉親が一人も居らず家を潰さない為に番を探している。勿論、家には入って貰うのが大前提だ。見合いもしたが絶賛全滅中だ。」 「天雨さんは呆れる位格好いいのに。僕は逆に皇帝の番になりたく無くて来たんです。故郷に戻って母の手伝いをしないと生活が立ち行きません。番を考える事は僕には無理なんです。」 「そうか…。お互いに悩みは尽きないな。だが陛下の件は番希望者のみ王宮に留まる筈だ。俺からも口添えしておこう。」 こんなに良くしてもらうなんて…戸惑いながら天雨さんに礼を言うと、笑顔で頭をポンポン撫でてくれた。 「俺には家族は居ないからな、流鶯を見て弟がこんな感じかと楽しかった。それよりも、あの門番は何故、ああも悪意を持って打ち据えたりしたのだろうな。」 あぁ、この人はΩへの差別をそんなに知らないんだと思った。 「いいんです。ああした扱いは、村でもよくある事で慣れてますから。」 努めて明るく言ったつもりなのに、天雨さんの顔が苦痛に歪んで、それを見ていて悲しくなった。 「仕事が残っていて、もう行かなくては。変な輩は王宮内にもいる。油断するなよ。」 僕は天雨さんと別れるのが寂しくて「今夜、昼間のお礼がしたいので城の中庭に来てください」と一方的に告げて逃げた。 人生で一番勇気を出して言った言葉だ。

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