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第8話
「鷹野さん……起きて下さい」
優しく体を揺さぶられ……目を覚ますと目の前には大久保君の笑顔。
「おはようございます」
「……おはよう」
朝から眩しい笑顔に思わず目を背ける。
そうだ……昨日……大久保君と……。
何を良い歳したおっさんが乙女な事を言ってるんだか。
布団の中でモダモダしていると大久保君に手を引かれ……リビングへ向かった。
「冷蔵庫……勝手に色々買って来ちゃいました」
爽やかに笑う大久保君は味噌汁をよそってくれている。
そんな朝早くから用意してくれていたのか。
あんなに激しいセックスをした後で……若いってスゴいな。
朝食らしい朝食を目の前にして唾液の分泌が活発になった。
飯まで作れるとはなんてハイスペックなんだ。
こんな子が……俺で良いのか?
「ありがとう……いただきます」
人の作ったご飯なんて何年振りだろう。
味噌汁に口をつけると温かさが染み渡る。
「鷹野さん結構、涙腺緩いですよね」
ふわりと微笑まれて大久保君の指が涙を掬った。
「美味しくて……感動しただけで……」
「こんな物で良ければ毎朝だって作りに来ますよ」
にこにこ嬉しそうな大久保君の笑顔につられて俺も笑った。
・・・・・
バス停迄の道を二人で歩いて、隣を見ると大久保君がキラキラ輝いている。
明るい日の光が二人の差を浮き立たせて居たたまれない。
「ごめんよ……君の輝かしい未来を……」
「どうしたんですか?いきなり」
「こんなおじさんに付き合わせて……すぐにおじいちゃんだ……君の未来が不安だ」
俺の懸念を吹き飛ばすように大久保君が笑う。
「そんなに先の未来まで一緒にいてくれるんですか?俺、高校卒業してずっと祖母の介護をしてたんです。福祉美容師の講習も受けたし……鷹野さんのお世話は任せて下さい!」
なんて出来た子だ……。
祖母の介護を高校卒業した孫が見るなんて……きっと俺なんかより人生の経験が豊富で、ずっとずっと大人な大久保君の笑顔が眩し過ぎる。
目頭を押さえた俺の服を大久保君が引っ張った。
「あ!俺ここの美容学校に通ってたんですよ」
ここは美容学校だったのか……。
緑1色になった桜の木を見上げると、新しい人生の出発を応援してくれるかの様に……優しく葉を揺らして笑って見えた。
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