2 / 11

第2話

慶一(けいいち)さん、コーヒー、飲む?」 随分と前から、秋青(しゅうせい)は2人分のコーヒーを入れてから、慶一にコーヒー飲む?と聞くようになった。慶一がいらないと、言わないことを知っているからだ。 一緒に住むことを決めたとき、慶一は頑として、寝室を別々にすることを譲らなかった。最終的には押し切られる形で引き下がった秋青だったが、それぞれが自室で眠るときも、朝の弱い慶一のために、秋青は慶一の部屋まで彼を起こしに来る。 慶一が秋青の腕の中で目覚めるときは、甘くやさしいキスとともに。 午前中はどうしたって気だるく、体も頭も働かない慶一は、秋青に連れられてリビングへ行っても、しばらくは寝巻のままソファに座って、ぼーっと外を眺めているのが常だった。 そうしているとそのうち、時間をかけて丁寧に、自分のためだけに淹れられたコーヒーが、気に入りのマグカップに注がれてことん、と目の前に置かれるのだ。 小食で、慶一には昔から朝食を食べる習慣がない。だから秋青は毎朝、コーヒーを淹れ終わると、自分の分だけ簡単に食事を用意する。そして、たっぷりのミルクと残りのコーヒーを注いだ自分のマグカップと一緒にそれをリビングに運び、わざわざ慶一の隣で食事をとる。 流し込むように食べ物とコーヒーを胃に押し込んで、自室とリビングを行ったり来たり、バタバタと準備を整えると、 「行ってきます」 と、秋青は爽やかな笑みを残して、慌ただしく家を出て行った。

ともだちにシェアしよう!