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第3話

外では昨晩から、雨が降り続いている。 パタン、と玄関の扉が閉まる音を後ろに聞きながら、慶一はしとしとと降りしきる雨音に耳を傾けていた。 秋青が自分を起こしに来て、手を引いて、時には自分を抱えてリビングのソファに座らせて、その細く長い指でそっと頬に触れて、大きな手で包み込むように頭を撫でて。 離れていく手が名残惜しいと、未練がましく見つめながら、服の裾を、つかんで引き留めたい衝動を必死にこらえて。 肌に、髪に、触れていた秋青の熱が、少しずつ失われていくのがさみしい。 そんなふうに鈍くくぐもった思考をもクリアにしてくれるから、慶一は昔からコーヒーが好きだった。 すきっ腹には少々堪えるときもあるが、飲めば深い苦みと香ばしい香りで頭はいく分かシャキッとしたし、喉元から胃の腑に落ちて、じんわりと熱が全身に沁み込んでいくのも心地よかった。 一杯のコーヒーを楽しむ朝のその時間。いつの頃からか、隣には秋青がいるようになって。 けれども、何を思っているのか悟られたくなくて、もういつからか、秋青の顔を見られなくなった。我慢できなくなって顔を向けると、目が合えばあいつは決まって、にこりと笑いかけてくる。 そしてああ、と、慶一は思うのだ。もうごまかせない、こいつが愛おしいと。 抱え込んだ膝に、顔をうずめた。

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