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第11話
春は出会いと別れの季節などというが、慶一にとっては自分から大切な人が離れていく季節でしかなかった。春が来て、環境ががらりと変わり、できることや知識が増えていくと、人の思考も自ずと変わる。
それは人が成長していく過程であり、その結果相手が自分の元から去るべきだと考えたのならそれでいいと、慶一はいつも自分に言い聞かせていた。
けれども、秋青に対してみっともないほどの執着を見せている自分に、慶一自身ですら驚いている。そして、いつの間にか一人では生きられなくなっていた自分に、来るかどうかもわからない未来に、慶一は恐怖し、傷ついていた。
女を抱ける秋青と、男しか好きになれない自分とでは、どうやったって根本的に違う。
――いつかは10も離れたクソガキなんて秋青を罵っておきながら、あいつに溺れたのは僕のほうだ。
静かに降りしきる雨の中、慶一はいつまでもうつむけた顔を上げられないでいた。
すっかり冷めたコーヒーはもう、どこかやさしげにほかほかと、あたたかな湯気を立てることもない。
Side K
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