10 / 11

第10話

そういえば、全部を消耗しきって疲れ果てたとき、秋青が休息場所に選んだのは、いつだって慶一の隣だった。 スイッチが切れたかのように寝息さえ立てず眠り込む秋青を見て、そんな寝顔にさえ愛しさが込み上げる自分に焦燥感を抱いたことを、よく覚えている。 ――僕はこの身を削って、物語を生み出しているわけではない。 自分にできることが、文章を書くことしかなかっただけだ。物書きの端くれにも加えてもらえない、そんな駄文に、秋青の才はもったいなさ過ぎる。 もっと大きな事務所に就職していれば、あるいは、フリーで何のしがらみもなく自由に仕事ができるならば、秋青はもっと大きなインパクトのある案件をこなして、経験を積んでいけるはず。世界にだって、羽ばたいていけるはず。 いくらでも可能性を秘めたその翼を手折っているのは僕ではないのか。大きな美しい翼で飛び立とうとするその足に、枷をつけて縛りつけているのは、僕ではないのか。 体だけじゃなく心が欲しいと言われたときも、一緒に暮らそうと言われたときも、同じ部屋で、同じベッドで、毎晩一緒に眠りたいと、言われたときも。 慶一は大人の分別を持って、一定の距離を保ってきたつもりだった。秋青が離れたいと言えば、いつでもこの手を離せるように。それなのに……。

ともだちにシェアしよう!