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1.最高で最悪な日曜と混乱の月曜日
「うっ……、ぐっ……、うぅ……、うっ、うっ、うっ……」
今日はオレの人生最高の日だった。夕方までは最高だった。
なのになのに、今のオレは人生最悪。なんでなんで? ヒドイよアヤちゃん……。
「うっ……、うっ……、グスッ、ひ――ん」
晩ごはん食べて部屋でまったりしてたらアヤちゃんから電話がきて……。オレ意味わかんないよ。布団かぶってごまかしてるけど、涙止まんないし大声で泣きたい。
ヒドイよ、ヒドイよアヤちゃん。
「わたし智クンのこと好きなの。つきあってくれたら嬉しいな?」
月曜日、隣のクラスの佐藤綾香ちゃんがオレに告ってきた。色白でちょっとぽっちゃりしてて、マシュマロみたいな可愛い子。告られたときはビックリしたけど、オレもちょっといいなって思ってた子だったから、即OKしちゃったんだ。その日初めて手をつないで駅まで一緒に帰ったんだ。
火曜日、塾まで余裕があるからって、遠回りして公園でおしゃべりしてから帰ることになった。ベンチに並んで座っておしゃべりしてるときに、アヤちゃんがチュッてしてきて、それがオレのファーストキス。それからまた手をつないで駅まで行ってバイバイした。
水曜日、木曜日、金曜日って毎日公園でおしゃべりして、チュッてキスして、オレめちゃ幸せだった。
土曜日は家族で出かける用事があるって言われてたんで、オレは親友とゲームとかしてすごしてた。親友にアヤちゃんのこと話したりして、「めちゃ嬉しそうな顔してんじゃん」って言われて、事実本当に嬉しかったからますます笑顔になっちゃった。
そして日曜日、今日のこと。初めてアヤちゃんちに遊びに行ってきたんだ。金曜のうちから約束してて、「その日は誰もいないから、智クンとゆっくりおしゃべりしたいな」って。オレめちゃ嬉しかった。毎日塾行ってるからって、昼休みと放課後ちょっと話すくらいしかできなかったから、好きな子とずーっと一緒にいれるってことで、天に昇るような気持ち。もうそのときには、オレもアヤちゃんのこと好きになってたし。
ちょっとは下心あったよ。でもつきあったばっかだったし、キスとかいっぱいできたらいいなってくらいだったんだ。
だからアヤちゃんちに行ってビックリしたんだ。まさか迫られるとは思ってなかったし。
「好きな人とひとつになりたいって思っちゃダメ?」
そんなセリフ、上目遣いで言われたらもうダメでしょ。舞い上がっちゃって、でも初めてだからガチガチに緊張もしちゃって……。ふたりとも初めてだったから、ちゃんとエッチできるまですげぇ時間かかっちゃったし。どっちかって言うとアヤちゃんの方が積極的で、オレちょっと恥ずかしかったけど。
エッチした後目をうるうるさせて「すごい嬉しい」ってアヤちゃん言ってくれたんだ。そのときオレ、もう絶対アヤちゃん大切にするって心に決めたんだ。
なのになのに……。
「うっ、うっ、うっ……、うぇぇぇ…、え――ん」
晩ごはんの後にアヤちゃんからかかってきた電話は、「もうお別れしよ」だった。オレ、最初言ってる意味わかんなかったし。だって数時間前にふたりで初エッチしたんだよ、アヤちゃん嬉しそうな顔してたんだよ。
「ごめんね、わたしバージン捨てたかっただけなの。智クン大人しそうで優しそうだったから、大丈夫かなって思って。ホントは初めてじゃない人とエッチできたらもっと良かったんだけど……。ごめんね。智クン優しくて楽しかったよ。それじゃあバイバイ」
「うっ、うぇっ、うぇぇぇ……、グス、うっ、うっ、うっ……」
一晩中泣いたら目が腫れちゃって、呆れたお母さんが学校に休みの連絡入れてくれた。
あっという間の一週間。思えば、先週の今日アヤちゃんに告られたんだっけ。そっから毎日嬉しくて、初めてできた彼女に舞い上がっちゃってて、でもきっと、そう思ってたのはオレだけだったんだ。
ボーっとしてるうちに夕方になってたみたい。ピンポーンってドアベルが鳴ってお母さんが出て、誰かと話してるみたいだった。
「智くーん、亮介くんが来たわよー」
お母さんのそんな声がして、ちょっとしたら亮介が部屋に入ってきた。
「亮介……」
「よっ! 今おばさんから聞いたんだけど、智失恋したっぽいって?」
そのセリフを聞いたらもうダメだった。うゎ~んって、また泣いちゃったよ。
亮介とは高校に入ってからの友達。一番最初は名前順の席で、相田智と井川亮介で前と後ろの席だったんだ。話してみたら楽しいヤツで意気投合しちゃって、今では親友だと思ってる。高2になった今も嬉しいことに同じクラスで、いつも一緒につるんでる。
ちなみに亮介はすげぇモテる。背も高いしキリっとした顔立ちで、クールなイケメンとか言われてて、ちょっとうらやましいんだ。特定の彼女は作んないけど、いろいろ遊んでるみたい。みたいってのは、そこらへんだけはオレに教えてくれないから。
「で、どうしたんだ? アヤちゃんと付き合ってたんだろ。昨日アヤちゃんちに行ったんじゃないのか? 何かヘマでもしたんかよ?」
エグエグ言いながら、オレはあったこと全部亮介に話した。エッチしたこと言うのはちょっと恥ずかしかったけど、亮介は黙って聞いてくれた。
「ひでぇな、それ。智は利用されただけじゃん」
「やっぱオレ、騙されたのかな?」
またまた涙が出てきちゃって、オレは亮介の肩におでこくっつけてまた泣いた。好きになっちゃった後だから、めちゃ悲しくて、泣いても泣いても涙が出てくるんだ。そんなオレに亮介は、ポンポンってあやすように背中に手を置いてくれて、暫くしたらやっと涙が引いてきた。
「気が済んだか? そんなひでぇオンナのことはもう忘れろ。智は笑ってたほうがいいぞ」
「で、でもオレ、まだ笑えない」
「とりあえず泣くのはもうやめような。明日も学校行けなくなるぜ」
「でも、まだまだ涙出る」
亮介の肩からおでこ離して、でもまだ涙は完全には止まらないから、オレは俯いたまま話してた。
そしたら急に亮介の手がオレの顎に伸びてきて、上向かされて
チュッ
「おっ、涙止まったじゃん。じゃあオレ帰るわ。明日学校でな」
そう言って亮介は帰っていった。
えっ、なんで?
オレ今亮介に、キスされ……た?
涙は止まったけど、めちゃ混乱してる。
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