2 / 36
2.めちゃめちゃ気になる
「智クンおはよー」
「智、風邪でもひいたんかー?」
教室に入ったら、友人から声をかけられた。オレは男子からも女子からも、智とか、智クン、果ては智チャンなんて呼ばれてる。そこまでチビってワケじゃないし、可愛いキャラってワケじゃないんで謎だ。まあでも嫌われてるワケじゃないんでいっかと思う。
「んー、ちょっと具合悪かっただけ。もう大丈夫」
「牛乳の飲みすぎで腹でも壊したかー?」
「るせーっ! 飲み慣れてるから腹なんか壊さねーって」
オレが途中で買ってきた牛乳パックを出しながら答えたら、クラスメイトの香山雅人がからかってきた。くやしいことにこいつはオレより背が高い。陸上部で、たしか走り高跳びの選手だったような気がする。
「背伸びた?」
「この前測りに行ったら168だった。春より3センチ伸びたぜ」
「えーずるい。今度オレも測りに行く!」
オレの牛乳仲間の高梨信一だ。示し合わせたワケじゃないけど、お互い毎朝牛乳を飲んでる。ついでに昼も飲んでる。オレは少しずつ背が伸びてるけど、こいつは夏休み前に測ったときは、全然伸びてなかったらしい。ちょっと優越感。でも、もしかしたら信一も背が伸びたかも。
「伸びてるんだ。そのうちに私より背高くなるかな」
「えー、智クンはそれ以上伸びない方が似合ってるよ」
今のは笹田梨奈ちゃんと渡辺愛理ちゃん。ふたり共バレー部で、愛理ちゃんはマネージャーをやってる。梨奈ちゃんは黙ってると冷たい雰囲気の美人。でも実際は世話好きで、ニコニコしてる方が多い。背も高いから女子にも人気があって、バレンタインデーはいっぱいチョコ貰ってたみたい。愛理ちゃんは小柄で目が大きくて元気いっぱいな子。美人って言うよりは、可愛いってカンジで男子の人気が高い。
この4人にオレと亮介の6人で、だいたいいつも一緒にいる。亮介以外は高2になってから仲良くなったヤツらだ。
「よぅ、元気になったみたいじゃん」
「お、おぅ……」
亮介が登校してきた。オレの頭をクシャっとやってから自席に向かって行く。途端に思い出す昨日のこと。あいつ何であんなことしたんだろ? キスなんて……。
「あれー智、何か顔赤くなってね?」
「オレ、ちょっとトイレ」
「ギャハハ、牛乳の飲みすぎはダメだぜー」
あー、オレどうしよ。昨日のこと思い出すとなんかドキドキしちゃう。
とりあえず、トイレで顔を洗ってから教室へ戻った。
その後はいつもと変わらない日々。休み時間になったら集まってダベって、昼もみんなでワイワイやりながら食べて、でもって放課後は解散。オレと信一以外は部活やってるから、授業が終わったら即行移動してる。
オレらの通う高校は所謂進学校ってヤツで、部活やってるやつの大半は、高2の秋に引退する。先生たちも、進学優先だから特に文句は言わない。引退って言っても、高3の夏くらいまでは、人によってはだけど、週に何回かは部活に参加してるみたいだし。
亮介は剣道部で次の試合が終わったら、陸上部の雅人は年末をもって引退することにしてるらしい。逆に梨奈ちゃんはバレーの強い大学を目指してるから卒業まで引退しないんだって。愛理ちゃんは既に引退してるんだけど、梨奈ちゃんと一緒に帰りたいから部活に参加してるとか。
何で亮介はあんなことしたんだろ? 気になるけど聞くチャンスが無くて、わざわざ電話して聞くってのも何か変だし、でもやっぱ気になって……。教室ではみんなと一緒だから普通に話すけど、少しぎこちなかったかもしれない。あー気になる。
「なあなあ、日曜って亮介の試合だろ?」
「おう」
「じゃあさ、みんなで応援行かね? その後カラオケとか行って、負けた亮介をみんなで慰めるってどうよ?」
「ひでぇ。最初から負けるって決めんなよ」
「さんせーい! 試験も終わったし、たまにはみんなで集まろうよ」
「井川クン頑張ってね。負けてもみんながついてるよ」
雅人の発案で、週末久しぶりにみんなで集まることになった。亮介も引退前の最後の試合ってことで気合入ってるし、オレも応援したいって思う。
帰る方向一緒だから、気になってること亮介に聞けるしな。
ホント、何であんなことしたんだろ? 今でもめちゃめちゃ気になってる。キスなんて……。
ともだちにシェアしよう!