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5.すっかり忘れてたし
その日もいつもと同じ日だった。いつも通り、学校行って授業受けて友達とダベって下校する。そんな繰り返し。だけどその日は、オレがいつの間にか忘れてたってのを思い出した日だった。
「なぁなぁ、隣のクラスの佐藤綾香、智付き合ってなかったっけ? スピード破局? オレ昨日、佐藤が3年の杉山先輩と腕組んで歩いてるの見ちゃったんだけど。しかもラブホの近く」
通院で3限目から登校してきた雅人が、昼休みになってオレに話しかけてきた。
「この前までは一緒に帰ったりしてたんだろ? 告られたって言ってたし。もう佐藤に彼氏がいるってことはさ、智がフラれたってことじゃん? ダッセーッ!」
あっけらかんと話す雅人の言葉で、オレは先月のあの一週間のことを思い出した。すっかり忘れてた。でも思い出した途端に悲しくなってきた。別れるときの彼女のあの言葉、「バージン捨てたかっただけなの」って言葉。なんか涙出そう……。
「雅人、テメェ、智に謝れ」
「えっ、あっ、何、亮介?」
亮介が、すごい顔して雅人の胸ぐらを掴んでた。
「香山クンひどーい、デリカシー無さすぎ」
「一度も彼女がいなかった、香山クンの方がダサイよ」
「だから、雅人はバカだって言うんだよ」
梨奈ちゃん、愛理ちゃん、信一が気遣ってくれてる。亮介は怒りの形相。オレのために怒ってくれてるんだ。
オレは強く瞬きして、浮かんできてた涙を引っ込めた。
「亮介、ありがと。もう大丈夫だから」
それから、ちょっと無理矢理だけど、ニカっと笑って続けた。
「そーなんだ。オレ、フラれちゃったんだ。なので新しい彼女募集中」
だいぶ顔が引きつってたと思うけど、大丈夫だったかな?
亮介はオレの頭をクシャっとしてから、教室を出ていった。
「ゴメン、智。オレちょっと軽率だったわ」
「気にしてねぇから大丈夫。オレ亮介探しに行ってくるわ」
そう言ってオレは亮介を探すべく教室を出た。どこにいるかわかんないけど、やっぱ屋上から探してみっかな。階段の手前にトイレがあったんで、一応そこをチェックしてから屋上へ上っていった。
「亮介!」
気分転換に訪れる場所ってのはだいたいが決まってて、亮介はやっぱり屋上にいた。フェンスにもたれてボケーっとしてる姿もやっぱりサマになってたりする。
「さっきはゴメン! って言うか、気ぃ使ってくれてありがと」
そう言いながらオレは、亮介と同じようにフェンスにもたれた。
「なんでか分かんないけど、オレ、あんなに悲しくて泣いたクセして、アヤちゃんとのことすっかり忘れてたよ。何だったんだろうな、あの一週間? 雅人に言われなきゃ今も忘れたままだったと思う」
亮介は何も言わず黙ってフェンスにもたれたままでいた。
「だからさ、オレもう大丈夫だから」
「……そっか」
少しの間オレたちは、黙ったままフェンスにもたれていた。
「井川センパイ!」
そろそろ教室に戻ろうって言おうとしたら、女の子に声をかけられた。センパイって言ってるから一年だろうな。この状況、亮介に告るってことか。
「んじゃオレ、先教室に戻ってるわ」
ひとり先に屋上を後にしたオレは、やっぱり亮介ってモテるんだなぁって思った。それからアヤちゃんとの事を考えていた。
何だろ? あんなにショックで悲しかったハズなのに、今はもう何とも思わないや。さっき雅人に言われたとき思い出して少し悲しくなったけど、それだけ。あれからまだ一ヶ月くらいだから、オレって立ち直り早いのかも。ってゆーか、やっぱ亮介のキスの衝撃の方がデカくてアヤちゃんのこと忘れた、って言うのが正解か。
おかしいよなオレって。女の子との初エッチよりも、亮介のキスばっかり思い出すなんて。
あ――もうっ! 何なんだよ!
なんとなく顔がほてってるような気がしたんで、トイレで顔を洗ってから教室に戻って行った。
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