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14.甘党はチョコの誘惑に弱いのだ
亮介と一緒に教室に戻ったら、知らない女の子がオレたちを待っていた。
「仲宗根……」
「やっほー智クン! はじめましてだね。私は仲宗根あかね。綾香の友達って言えばわかる?」
「う、うん……」
待ってたのはアヤちゃんの友達の子だった。さっき亮介が言ってた子だと思う。
「その顔どうしたの?」
「綾香に引っ叩かれちゃった。もう友達やめるって。別にいいけどさぁ」
「えっ」
「智クンは気にしなくていいのよー。悪いのは綾香の方だから」
仲宗根さんはそう言ってケラケラと笑っていた。
きっとオレは、彼女が亮介に話してくれたから、トラブルに巻き込まれることが無かったんだと思う。どんなトラブルかってのは想像でしかわかんないけど、結構ヤバそうなカンジなんじゃないかな。何でオレなんだろ?って実はずっと思ってるんだけど、それは結局今もわかんないや。ってまあ、そこは今は関係ないか。
「仲宗根さん、亮介に話してくれてありがとう。それと……、そのせいで友達失うことになっちゃって、ゴメン」
せめてこのくらいは……って、頭を下げた。
「だから気にしないでー。私さ、綾香が智クンと付き合うとき、その目的とか知ってたの。あまり良い気分じゃなかったけど、結局何も言わず黙ってたからさ、その罪滅ぼしも兼ねてかな。だからこれでおあいこってことにしてくれる?」
そう言って仲宗根さんはニッコリ笑ってくれた。赤いほっぺたが痛々しかったけど。罪滅ぼしって言ったけど、仲宗根さんが悪いなんてこれっぽっちも思わないよ。
「亮介クン、智クン、じゃあね! 今度3人でカラオケでも行こうね」
少しおしゃべりしてから仲宗根さんは帰っていった。初めて話したけど、仲宗根さんって良い人だな。
「んじゃ、オレたちも帰るか」
そう言って亮介はカバンと一緒に大きな袋を手に持った。
「なあそれってさ……、全部貰ったチョコ?」
「ん? そう……だけど」
「何だよそれ。すっげー嫌味じゃん。亮介なんかチョコの食いすぎで鼻血吹け!」
そう言ったオレに亮介は困ったような顔をしていた。
だってさー、マジですごいんだぜ。ちょっとくらい嫌味言ってもいいじゃんか。
うらやましい……。いや、うらやましくなんかないぞっ。
なんとなくたけど、亮介に八つ当たりしたら気分が上向いた。
ゴメンな亮介。口には出さず、心の中でだけ謝っておいた。
「なあ、今日うちに寄ってかね?」
家が近くなってきたら、亮介がそう言ってきた。
「今ならチョコ食べ放題。智甘いもの好きだろ」
「えー、でもそれ亮介が貰ったチョコじゃん。オレが食べたら悪いっしょ」
「オレあんまチョコ食べないし。智が食べなきゃ姉貴の友達に渡るだけだし」
亮介のお姉さんの友達にチョコ好きな人がふたりいて、毎年亮介が貰ったチョコはその人たちにあげてるんだって。知らなかったよ。初めて聞いたその事実。ちょっとだけ、一生懸命選んだり作ったりして亮介にチョコ渡してる女の子たちが可愛そうになった。
「じゃあ、梨奈ちゃんや愛理ちゃんのチョコも食べずにあげちゃうの?」
「あ、それはちゃんと食べる。来月お礼もする予定」
良かった。友達からのチョコはちゃんと食べるんだ。
結局オレは亮介の家に寄り道することにした。だってチョコ食べ放題だもん。嬉しすぎて鼻血が出るかも。やべぇ、亮介に鼻血吹けなんて言うんじゃなかった。
甘いコーヒーを飲みながら甘いチョコ。う~ん至福のひととき。
亮介はそんなオレを機嫌良さそうに見ていた。きっとアヤちゃんのことで、気を使ってくれたんだろうな。サンキュ、亮介。
「亮介さ……、屋上での亮介、すげーカッコ良かったぜ。なんかヒーローってカンジで」
「えっ、そぉ? 智に言われるとなんか嬉しいな」
「うん、まあ……。とりあえずサンキュな」
なんか顔が赤くなったような気がする。なのでオレはチョコを選んでるフリして下を向いた。だって照れるじゃん。
「智、人間湯たんぽしてくれる?」
「えー、ヤダ」
「ヒーローからのお願い」
「それとこれは話が別」
「ケチ」
「ケチじゃねぇ!」
亮介は不貞腐れてたけど、それとこれは別。オレは知らんぷりして残ってるチョコを食べ始めた。
「……してやってもいいよ」
「えっ?」
「だから……、湯たんぽしてやってもいいよ。今日のお礼に」
亮介は嬉しそうに背中に引っ付いてきた。そう、これはお礼。亮介のおかげで助かったから、そのお礼だ。
「っだ――ッ! 腕をホールドすんな! チョコが食えん! コーヒーが飲めん」
「そろそろチョコ止めたら? マジで鼻血出るぜ」
引っ付いたと思ったら腕ごとホールドするだもん。オレはまだまだチョコが食べたいんだ。鼻血は……、もし出たら、それは亮介のせいだ。きっと。
亮介はオレの腹のあたりで腕をクロスさせた。でもって、何でか脚もガッチリホールドされてしまった。何だ? 何だこの体勢? 何かあっても逃げれないぞ。いや、お礼で湯たんぽしてるんだから、逃げる予定は無いんだけどさ。
「首に息とか吹きかけんなよ! やったら即行湯たんぽ止めるからな」
「智うなじ弱いの?」
「だーかーらヤメロ。オレにチョコ食わせろ」
亮介はワザと首に息吹きかけてきた。ちくしょう、チョコ食えんじゃんか。
まあでも、しばらくしたら飽きたみたいで、オレはゆっくりチョコの続きを堪能することができた。
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