13 / 36
13.男子にとっては気になる日
冬休みが終わって3学期が始まった。と言っても冬期講習なんかに出てたせいで、休みだったってカンジはほとんど無い。朝起きる時間がちょっと早くなっただけってカンジかなぁ。
信一と梨奈ちゃんは、忙しい中時間を作って一緒に出かけたりしてたみたいだ。最近梨奈ちゃんがめちゃめちゃ可愛くなったような気がするから、きっと信一と上手くいってるんだと思う。愛理ちゃんが一度だけその二人と一緒に出かけたらしく、「冬なのに熱くて大変だった」ってボヤいてた。
そして今日は男子にとってはドキドキの日だ。だってゼロか1かで天国と地獄に別れる日だと思うもん。義理でも良い、その1コがオレたちの心を救うのだ! なんてね。でもそれくらい気になる日ってこと。
そう、今日はバレンタインデーなんだ。
オレ? オレは2コ貰ったよ。愛理ちゃんと梨奈ちゃんから。義理でも嬉しい。しかも愛理ちゃんからのは手作りチョコだったし。
そんな愛理ちゃんだけど、信一情報によると3年の先輩に本命チョコをあげるんだとか。知らなかった事実にちょっとビックリ! もちろん上手くいくといいなって思うよ。
雅人はオレより1コ多かった。部活の後輩から貰ったんだってさ。雅人に負けるって、なんとなく悔しい。信一は……、今日は梨奈ちゃんとデートだってさ。こっちは悔しいじゃなくて羨ましいだ。いいな、信一。
モテモテの亮介は……。こいつについては無視だ無視! さっきは3年生の子が教室に来てたし、きっと放課後には大量のチョコを持って帰るんじゃないかな。ここまでくると、羨ましいを通り越して呆れるってレベル。亮介なんかチョコの食べ過ぎで鼻血吹き上げろ!
「智クン、ちょっといいかな?」
今日はみんなで帰ろうってことで亮介を待ってたら、アヤちゃんがオレを呼びにきた。隣のクラスの佐藤綾香ちゃん。オレが初めて付き合って、ふられたコ。詳しくは知らないけど、今は3年の杉山先輩って人と付き合ってるんじゃなかったっけ?
「亮介が来たら先に帰ってていいから!」
とりあえず皆にそう言ってから、オレはアヤちゃんの後ろを付いていった。たった一週間だけど、彼女とは付き合ったんだよな。あのときはかなり悲しかったけど、でも今は何も浮かばないや。オレの中では過去のことって折り合いがついたんだと思う。
どこまで行くのかな?って思ったら屋上だった。この季節に屋上って寒いよ。言ってくれたらマフラーくらい持ってきたのに。そんなことを思いつつ、アヤちゃんの言葉を待っていたんだ。
「これ……、智クンに」
そう言ってアヤちゃんが渡してきたのはチョコレートだった。ビックリ。でもせっかくなので、素直に礼を言って受け取った。
教室に戻ろうかと思ったけど、アヤちゃんが何か言いたそうだったんで、ちょっと待ってみた。何だろ? でも屋上は寒いから、なるべく早く話して欲しい。
「あのね智クン……、私たち、もっかいやり直せるかな?」
「えっ、でもアヤちゃんは3年の何とかって先輩と付き合ってるんじゃないの?」
「ごめんね。付き合ってみたら、やっぱり智クンの方が好きってのに気がついたの」
そう言ってアヤちゃんは真剣な目でこっちを見た。
ビックリした。でも、ごめん……。
「オレもう、アヤちゃんと付き合いたいって思えないや。ゴメン」
本当にアヤちゃんと付き合う気にならないんだ。だからゴメンって謝った。そしたらアヤちゃん、目をウルウルさせて……今にも泣きそう。
「智クンひどい。私の初めてを奪ったクセに。責任取ってよ!」
アヤちゃんは泣きながらそう言ってきた。責任取れって、オレ……。
でも何でオレ? アヤちゃんは先輩と付き合ってたんでしょ。「バージン捨てたかっただけ」ってオレに言ったよね。
何で今になってそんなこと言うの?
言ってる意味わかんないよ。
オレにどうしろって言うの?
頭ん中グチャグチャになりそう……。
「智! 帰るぞ」
突然かかった声に驚いて振り向くと、亮介だった。
亮介すっごい怖い顔してる。怒ってる? オレに? なんで?
「亮介……、なんで……」
「雅人たちは先に帰った。オレは智と一緒に帰りたいから迎えにきた」
少し優しそうな顔でそう言った亮介は、すぐ表情を引き締めてアヤちゃんへ話しかけた。
「あのさ、智のことバカにしないでくれる?」
「えっ? な……」
「仲宗根さん、仲宗根あかねさん。佐藤さんの友達でしょ。AAコンビってふたりで名付けて仲良くしてるって。オレ仲宗根さんと中学から友達だから、いろいろ知ってるよ」
「あ、あの……」
「できちゃったかもって相談したんでしょ。でもそれは佐藤さんの問題であって、智には関係ないよ。佐藤さんは智を利用したいの?」
「…………」
「オレさ、智をバカにする子は大嫌いなんだ。消えてくれる?」
亮介はオレが持っていたチョコを奪って、アヤちゃんに突っ返した。アヤちゃんはオレたちのことを睨み返してから、走り去っていった。
「亮介……」
屋上に亮介とふたり。
オレって利用されやすいの? チョロいの? またなの? そう思ったら何か情けなくて涙が出てきた。
「智は何も悪くねぇよ」
そう言って、いつものようにオレの頭をクシャッて撫でた。ちょっと気が抜けたけど、やっぱり涙は止まらないや。
「あんまり泣いてると、またキスするぞ」
「えっ?」
「帰るぞ」
「……うん」
何とか涙を止めて、オレたちは教室へ戻って行った。
ともだちにシェアしよう!