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13.男子にとっては気になる日

 冬休みが終わって3学期が始まった。と言っても冬期講習なんかに出てたせいで、休みだったってカンジはほとんど無い。朝起きる時間がちょっと早くなっただけってカンジかなぁ。  信一と梨奈ちゃんは、忙しい中時間を作って一緒に出かけたりしてたみたいだ。最近梨奈ちゃんがめちゃめちゃ可愛くなったような気がするから、きっと信一と上手くいってるんだと思う。愛理ちゃんが一度だけその二人と一緒に出かけたらしく、「冬なのに熱くて大変だった」ってボヤいてた。  そして今日は男子にとってはドキドキの日だ。だってゼロか1かで天国と地獄に別れる日だと思うもん。義理でも良い、その1コがオレたちの心を救うのだ! なんてね。でもそれくらい気になる日ってこと。  そう、今日はバレンタインデーなんだ。  オレ? オレは2コ貰ったよ。愛理ちゃんと梨奈ちゃんから。義理でも嬉しい。しかも愛理ちゃんからのは手作りチョコだったし。  そんな愛理ちゃんだけど、信一情報によると3年の先輩に本命チョコをあげるんだとか。知らなかった事実にちょっとビックリ! もちろん上手くいくといいなって思うよ。  雅人はオレより1コ多かった。部活の後輩から貰ったんだってさ。雅人に負けるって、なんとなく悔しい。信一は……、今日は梨奈ちゃんとデートだってさ。こっちは悔しいじゃなくて羨ましいだ。いいな、信一。  モテモテの亮介は……。こいつについては無視だ無視! さっきは3年生の子が教室に来てたし、きっと放課後には大量のチョコを持って帰るんじゃないかな。ここまでくると、羨ましいを通り越して呆れるってレベル。亮介なんかチョコの食べ過ぎで鼻血吹き上げろ! 「智クン、ちょっといいかな?」  今日はみんなで帰ろうってことで亮介を待ってたら、アヤちゃんがオレを呼びにきた。隣のクラスの佐藤綾香ちゃん。オレが初めて付き合って、ふられたコ。詳しくは知らないけど、今は3年の杉山先輩って人と付き合ってるんじゃなかったっけ? 「亮介が来たら先に帰ってていいから!」  とりあえず皆にそう言ってから、オレはアヤちゃんの後ろを付いていった。たった一週間だけど、彼女とは付き合ったんだよな。あのときはかなり悲しかったけど、でも今は何も浮かばないや。オレの中では過去のことって折り合いがついたんだと思う。  どこまで行くのかな?って思ったら屋上だった。この季節に屋上って寒いよ。言ってくれたらマフラーくらい持ってきたのに。そんなことを思いつつ、アヤちゃんの言葉を待っていたんだ。 「これ……、智クンに」  そう言ってアヤちゃんが渡してきたのはチョコレートだった。ビックリ。でもせっかくなので、素直に礼を言って受け取った。  教室に戻ろうかと思ったけど、アヤちゃんが何か言いたそうだったんで、ちょっと待ってみた。何だろ? でも屋上は寒いから、なるべく早く話して欲しい。 「あのね智クン……、私たち、もっかいやり直せるかな?」 「えっ、でもアヤちゃんは3年の何とかって先輩と付き合ってるんじゃないの?」 「ごめんね。付き合ってみたら、やっぱり智クンの方が好きってのに気がついたの」  そう言ってアヤちゃんは真剣な目でこっちを見た。  ビックリした。でも、ごめん……。 「オレもう、アヤちゃんと付き合いたいって思えないや。ゴメン」  本当にアヤちゃんと付き合う気にならないんだ。だからゴメンって謝った。そしたらアヤちゃん、目をウルウルさせて……今にも泣きそう。 「智クンひどい。私の初めてを奪ったクセに。責任取ってよ!」  アヤちゃんは泣きながらそう言ってきた。責任取れって、オレ……。  でも何でオレ? アヤちゃんは先輩と付き合ってたんでしょ。「バージン捨てたかっただけ」ってオレに言ったよね。  何で今になってそんなこと言うの?  言ってる意味わかんないよ。  オレにどうしろって言うの?  頭ん中グチャグチャになりそう……。 「智! 帰るぞ」  突然かかった声に驚いて振り向くと、亮介だった。  亮介すっごい怖い顔してる。怒ってる? オレに? なんで? 「亮介……、なんで……」 「雅人たちは先に帰った。オレは智と一緒に帰りたいから迎えにきた」  少し優しそうな顔でそう言った亮介は、すぐ表情を引き締めてアヤちゃんへ話しかけた。 「あのさ、智のことバカにしないでくれる?」 「えっ? な……」 「仲宗根さん、仲宗根あかねさん。佐藤さんの友達でしょ。AAコンビってふたりで名付けて仲良くしてるって。オレ仲宗根さんと中学から友達だから、いろいろ知ってるよ」 「あ、あの……」 「できちゃったかもって相談したんでしょ。でもそれは佐藤さんの問題であって、智には関係ないよ。佐藤さんは智を利用したいの?」 「…………」 「オレさ、智をバカにする子は大嫌いなんだ。消えてくれる?」  亮介はオレが持っていたチョコを奪って、アヤちゃんに突っ返した。アヤちゃんはオレたちのことを睨み返してから、走り去っていった。 「亮介……」  屋上に亮介とふたり。  オレって利用されやすいの? チョロいの? またなの? そう思ったら何か情けなくて涙が出てきた。 「智は何も悪くねぇよ」  そう言って、いつものようにオレの頭をクシャッて撫でた。ちょっと気が抜けたけど、やっぱり涙は止まらないや。 「あんまり泣いてると、またキスするぞ」 「えっ?」 「帰るぞ」 「……うん」  何とか涙を止めて、オレたちは教室へ戻って行った。

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