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第1話 出会い編

目の前へ突如躍り出た四つ足の生き物が、長く鋭い角で敵を貫く。 何が起こったのか、すぐには分からなかった。 生き物はプリズムのように光り輝いている。 「……馬? いや、ユニコーン?」 パールホワイトはつぶやく。 ユニコーンなんていうものが、現実にいるのかも分からない。 自分の知る限りでは伝説か、架空の生き物だったはずだ。 パールホワイトの頭の中には、そんな曖昧な知識しかなかった。 ただひとつ明らかなことは、自分がこの生き物に助けられたということだ。 さっきまで自分と対峙していた敵は、彼の角に刺し貫かれ、光の粒となって消えていた。 ユニコーン――仮にそう呼ぶとしよう――の後ろ姿を、パールホワイトはただ唖然として見つめる。 と、ユニコーンが四本の長い脚を動かし、こちらに方向転換した。 鋭い角を向けられ、胸の鼓動が跳びはねる。 「あ、あの……」 お礼を言うべきか、何者なのか聞くべきか。 その前に、言葉の通じる相手なのかも分からなかった。 困惑しているうちに、ユニコーンが一歩こちらへ近づく。 「わ、えーと!?」 「なに?」 「あ……」 (しゃべった!) 「いちいちビクつかないでよ……」 そう言いながらユニコーンは白く光り、人の形に姿を変えた。 銀色の髪の華奢な青年。 彼は自分と同じ特注のつなぎを着ている。 けれどもただの人間ではないらしい。 彼の額からは、ユニコーンの長い角が生えていた。 「僕は変態レインボー。いわゆる追加戦士っていうやつ?」 ユニコーン、もといレインボーは、どこか投げやりに自己紹介する。 「きみはパールホワイトでしょ? ブラックさんに言われて手伝いに来たけど、あまり僕に手間をかけさせないでよね」 それだけ言うと、レインボーはにこっと微笑み去っていった。 * それからというもの、戦場でパールホワイトの視線はレインボーに釘付けだった。 (レインボー、またやってる) 輝くユニコーンに変身し、鋭い角で敵を次々と串刺しにする。 そして彼の駆け抜けたあとには、美しい虹ができるのだ。 しかしパールホワイトの視線が注がれる先は今、それとは別のある一点だった。 (レインボーのアレってどうなってるんだろう? 馬のはすごいって聞くけど……) 伸びやかな後ろ脚の間を遠巻きに窺う。 彼に興味が向かってしまった結果、パールホワイトはそんなしょーもない妄想に心を支配され始めているのだ。 最近、会社の先輩たちとの3Pに飽きがきてしまっていたというのもあるかもしれない。 変態パールホワイトは、その名に恥じない変態なのだ。 馬並みのナニにナニされてみたいという欲望が、戦闘中の体を高ぶらせていた。 しかしレインボーの動きは素早く、全身が発光しているのもあってシルエットすらおぼつかない。 結果、パールホワイトは戦いそっちのけで、ユニコーン態のレインボーを、具体的にはその後ろ脚の間を見つめるしかなかった。 そんな時、すべての敵を片づけ終えたレインボーが人の姿に戻り、まっすぐにこちらへ歩いてくる。 (え、何、見てたのバレちゃった!?) 焦ったが遅かった。 「ねえ、前から言おうと思ってたけど。僕のこと、やらしい目で見ないでくれる?」 尖った角の先を喉元に向けられた。 彼の角は、片腕ほどの長さがある。 こうされると手の届く範囲に近づくこともできない。 「違っ、ただ僕は……」 言い訳しようとするパールホワイトだったが、レインボーの指摘があまりに的確で二の句が継げなかった。 レインボーがふいに、眉間にしわを寄せる。 「っていうかきみ、すっごい雄の匂いしてるんだけど……」 そうだ、今日は急な敵襲で、変態プレイ中のベッドから直行してきたんだった。 青ざめるパールホワイトに、レインボーは冷酷に告げる。 「僕、そういう子は嫌いだから! 僕に近づかないで、串刺しにされたくなかったら!」 「えっ、そんな……」 「じゃあね!」 レインボーはこちらも見ずに別れを告げ、その場から立ち去ってしまった。 * 恋ははかなく美しく、そして残酷だ。 しかしパールホワイトの想いは、おそらくその域には達していなかった。 抱いているのは単なる性欲である。 「レインボー……」 彼のコードネームをつぶやきながら、パールホワイトは部屋でひとり、馬のペニスの画像を検索していた。 馬とユニコーンは別物のはずだが、もはやそんなことはどうでもよかった。 手の届かない人への憧れと欲望を、それに投影して自分を慰めることしかできない。 そうしてひとり、部屋でパンツを脱ぎかけていた時、玄関のインターフォンが鳴った。 何かと思えば、どこかの通販サイトから代金引換の荷物が届く。 注文した覚えはなかった。 困惑していると、そこへスマホのメッセージが届いて……。 『ブラック隊長がきみのこと慰めろっていうから、注文してそっちに送っておいたよ。それで我慢して』 レインボーからだった。 彼とのことでふさぎ気味のパールホワイトに気づき、ブラック隊長がレインボーに声をかけてくれたんだろう。 けれど、この箱の中身はなんなのか。 首を傾げながらもお金を払い、宅配便のお兄さんには帰ってもらった。 そしてリビングに戻り箱を開けると、出てきたのは白く輝く極太のバイブだった。 パールホワイトはぽかんとしてそれを見つめる。 それから遅れて、笑いが込み上げた。 なんて的確なプレゼントだろう。 今の自分にこれ以上ぴったりなものはない。 こんなものを代金引換で送ってくるなんて。彼はサディストだ、けど……優しい。 馬のペニスばかりを羅列するノートパソコンを閉じ、パールホワイトはレインボーの顔を思い浮かべた。 天国から降ってきたような青い瞳に、蠱惑的な唇。 彼の視線と言葉は冷淡なのに、裏表のない正直さが愛おしい。 「ああ……」 甘いため息とともに、ソファに身を投げ出した。 そしておもむろに下を脱ぎ、極太バイブを後ろに押し当てる。 その大きさに抵抗はあったももの、そこは日頃の夜遊びで鍛え上げた肛門括約筋だ。 滑らかに伸び縮みして、憧れの人からのプレゼントを呑み込んだ。 「あぁ……いい……」 うっとりとして目を閉じると、彼の蔑むような瞳が脳裏に浮かぶ。 ――僕、そういう子は嫌いだから。 そんな目で見ないで。僕を今、こんなふうにしているのはきみなんだよ……。 淫らな体が恥ずかしい。けれど……体の欲望を追い求めるのはいけないことなんだろうか。 僕らは変態だ。きっと、生まれながらにして。 それはもう、変えようがない。 手探りでバイブのスイッチを入れると、体は否応なく快楽の渦に呑み込まれていった。 「……ああっ、んっ……レインボー」 無機質なはずの振動が、甘い喜びとなって指先にまで伝わっていく。 こんな姿を彼に見られたら、僕は恥ずかしくて死ぬしかない。 けれどもこのプレゼントをくれた時点で、彼は僕の悶える姿を蔑みながらも想像しているんだろう。 「ああん、もう……レインボーのばか……」 名前を呼ぶ声が乱れる。 内側から揺さぶられる下半身だけでなく、顔までが熱かった。 * それから次の招集日。 「こんばんはー。……あれ、レインボーひとり?」 作戦会議のために呼ばれて行った部屋で、彼と鉢合わせしてしまった。 「そうだよ、ブラック隊長もグレーさんもまだみたい」 「そっか、えーと……」 「座ったら?」 「うん……」 それだけで会話は終了してしまった。 会って気まずい、会えてうれしい。 相反する気持ちが胸の中で交差する。 夜の招集にまだ慣れないのか、レインボーは小さくあくびしていた。 僕のこと、やらしい目で見ないで――。 前にそう言われたけれど、性的な感情を含めずに彼を見ることができそうになくて、顔を向けられない。 仕方なくうつむいていると、ふたつ隣の席からレインボーが身を乗り出してきた。 ドキッとして顔を上げる。 耳元から十数センチのところまで、彼の顔が近づいた。 「きみ……」 「え……うん?」 間近に視線が絡まる。 「匂い」 「匂いが、何?」 今日はちゃんとシャワーを浴びてきたし、そもそも最近は外で夜遊びをしていない。 レインボーのことが気になって、それどころではなかったからだ。 「匂い、気になる?」 「うん」 目の前にある彼の唇が曖昧に笑った。 「シリコンと、ゴムの匂い。僕のあげたの使ってる?」 「あ……」 そっちの匂いかと思い、少しホッとする。 そっちでも恥ずかしいは恥ずかしいんだけど……。 「……何? その反応」 固まっていると、くすりと小さく笑われた。 そうだ、ここはお礼を言うべきなんだろうか。 「え、と……ありがとう」 「ありがとうって、お金払ったのきみだけどね」 レインボーは椅子の背もたれに背中を戻し、くすくすと笑い続ける。 パールホワイトは何も言えず、その横顔を見つめた。 と、笑いを収めた彼が、少し真面目な顔をして言う。 「そういうことは、本当に好きになった人とした方がいいと思う」 (え……?) 「それまでは、それで我慢しなよ」 何を思ってそんなことを言うのか。彼は何を知っているのか。 よく分からないけれど、パールホワイトの乱行ぶりを誰かから聞いているのかもしれない。 「そう、だね……」 曖昧に返事すると、レインボーは小さく笑って頷いた。 その横顔に、パールホワイトは心の中で問いかける。 (けどもし……僕が本当にきみを好きになったら、その時きみはどうするつもりなの?) たぶんそれは、まだ先のおはなし。 END

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