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Ⅲ どれだけも、どんなにも……③

ザアァァァァァー 雨の音だけが(こだま)する。 銃口が火を噴かない。 なぜっ! (『貴方』は) 『貴方』を撃った銃が、私に語る。 これが恐らく最後の言葉だ。 『私に、この右眼で未来を見ろ……と』 『貴方』が愛し、『貴方』が遺し、『貴方』が託してくれたピンクと共に、 未来を 私はどれだけ、幸せを贈れるだろう。 どれだけ幸せを届けられるだろう。 どれだけ幸せを君に、捧げられるだろう。 (違うね) 願いは、そうじゃない。 私は願わない。 きっと、君もそうだろう。 幸せを、君と共に語りたいんだ。 語り合えるだけのたくさんの幸せを、いっぱいの幸せを、大きな幸せを。 君と共有しよう。 未来を共に…… 生きる事を願いたい。 なにも残さず、遺す事なく消えるリンリーと、私達は違うよ。 自分勝手で、我が儘で、それでも君を想っている。 この想いは、君に残るかな? 残らないのなら、どんどん上書きするさ。 君から消えるよりも、早く、深く、濃厚に描き込む。 この想いを 想いは止まらないから 冷えてしまった君の体を抱きしめた。 雨、冷たかったろう。 「マントの中に入れたのは、君が初めてだ」 触れた君。 体温が上昇した。 アールグレイの香りはダメだ。雨の香りもいけないね…… 「私の香りに染まればいいんだよ」 鼓動と鼓動が重なる。 「ドキドキしてる」 「そうだね、君の心音が伝わってくる」 トクトク ドクドク 雨垂れよりも、幸せな音色だね。 幸せを奏でる音色がまた一つ増えたね。 「私もドクドクしてるよ」 「ブラックも?」 「分からないかい?」 悪い子には、もっと体をくっつけるしかなさそうだ。……ギュッ♥ 「わっ!」 「逃げる事は許さない」 「それは命令」 「そうだよ」 「司令塔としての」 「違うね……恋人の命令だ。離れたくないよ」 「うん……俺も」 恥ずかしそうに、顔をうずめる君が愛らしい。 「良かった、恋人で」 「君以外にいるわけないだろう」 「嘘つき。俺の代わりはいるって」 「そんな事、言ったかい?」 私は嘘つきだ。 どちらの嘘が本当で、どちらの本当が偽りかは、恋人の君なら分かるだろう。 「ねぇ、君にしか叶えられない願いを伝えてもいいかい?」

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