12 / 12
第12話(最終話)
気づけば、夕方。
たくさん遊んだ。
観覧車、メリーゴーランド。
ジェットコースター。
何もかもが初めてで。
私は栄彦さんの隣で、大はしゃぎした。
「楽しかった!」
ベンチに座り、飲み物を飲みながら、私は言う。
「とても楽しかった。来れて良かった」
「恩恵くん。ジェットコースター好きなんだね」
「うん。ビューッて、速くて、すごかった!」
あのさ、と私は隣で麦酒を飲む栄彦さんを見る。
「また来たい! 良い……ですか?」
「うん。また来よう」
「うん!」
私が大きく頷くと、栄彦さんは一瞬目を大きくさせ、その後、微笑んで涙を流す。
「うん。そうだね……。耀李 」
「?」
ひかり?
私は恩恵だよ、栄彦さん。
そう言おうとしたとき。
栄彦さんは麦酒を置き、私を強く抱きしめる。
「ごめんな……。仕事ばかりで。お前に、きつく当たったりして。お前のこと、とても大切なんだ。耀李、悪かった。許してくれなんて言わない」
「…………」
「耀李……、どうしてホームから落ちたんだよ。どうして……」
「…………」
「俺はお前がゲイでも、大切な息子なんだ! 死なないで……、逝かないでほしかった! お前と母ちゃんのいない時間は……、とても虚しかったよ」
「…………」
泣きながら話す栄彦さんの背中を、私は無言でさする。
こんなとき、私は何も言わない。
何も言わず、何も聞かなかったことにして。
黙って話を聞いて、背中をさする。
弟と妹に、よくやっていた。
しばらくして、栄彦さんは「あ」と言って、私から離れる。
「ごめん! みっともない姿を見せて」
「いえ、そんなことないです。ただ、少し……嬉しかったです」
「え?」
「栄彦さんのこと、見れた気がして」
私は目を伏せ、栄彦さんに言う。
「ひかりさん、きっと栄彦さんのことを憎んだりしてないと思います。私も父に否定され、家を追い出されましたが。頭では判ってたことでしたから」
「……でも、耀李は」
「ひかりさんも、判ってたと思います。受け入れられないことを。でも、知ってたはず。栄彦さんが、自分のことを本当に愛してるから、簡単に受け入れられなくて、どうすれば良いか悩んでたのを」
だから、きっと。
ひかりさんは、自殺ではなくて。
本当に事故だったのではないか。
もしくは、事件。
「そんなに、思い悩まなくて良いと思います」
「っ」
「それでも、思い悩むなら。思い悩んでしまうなら、私にひかりさんにできなかったことをすれば良いです」
どうですか? と、私が言うと、栄彦さんは頷く。
「そうだね。そうするよ」
「はい」
「たくさん可愛がっちゃうぞ~」
栄彦さんは、私の頬をむにゅむにゅする。
「覚悟しておけ~」
「栄彦さんも覚悟しておいて 。必ず 、私にほれてもらうから !」
「あはは、何言ってるかわからんぞ」
「むぅ」
「さて」
栄彦さんは私の頬から私の手に手を移して、立ち上がる。
「帰ろっか。俺たちの家に」
「うんっ」
私は離れないように、ぎゅっと栄彦さんの手を握った。
こうして、改めて。
私の新生活が始まった。
初恋の人に、振り向いてもらうための。
この初恋の上手な育て方を考えながら。
ともだちにシェアしよう!