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第12話(最終話)

 気づけば、夕方。  たくさん遊んだ。  観覧車、メリーゴーランド。  ジェットコースター。  何もかもが初めてで。  私は栄彦さんの隣で、大はしゃぎした。 「楽しかった!」  ベンチに座り、飲み物を飲みながら、私は言う。 「とても楽しかった。来れて良かった」 「恩恵くん。ジェットコースター好きなんだね」 「うん。ビューッて、速くて、すごかった!」  あのさ、と私は隣で麦酒を飲む栄彦さんを見る。 「また来たい! 良い……ですか?」 「うん。また来よう」 「うん!」  私が大きく頷くと、栄彦さんは一瞬目を大きくさせ、その後、微笑んで涙を流す。 「うん。そうだね……。耀李(ひかり)」 「?」  ひかり?  私は恩恵だよ、栄彦さん。  そう言おうとしたとき。  栄彦さんは麦酒を置き、私を強く抱きしめる。 「ごめんな……。仕事ばかりで。お前に、きつく当たったりして。お前のこと、とても大切なんだ。耀李、悪かった。許してくれなんて言わない」 「…………」 「耀李……、どうしてホームから落ちたんだよ。どうして……」 「…………」 「俺はお前がゲイでも、大切な息子なんだ! 死なないで……、逝かないでほしかった! お前と母ちゃんのいない時間は……、とても虚しかったよ」 「…………」  泣きながら話す栄彦さんの背中を、私は無言でさする。  こんなとき、私は何も言わない。  何も言わず、何も聞かなかったことにして。  黙って話を聞いて、背中をさする。  弟と妹に、よくやっていた。  しばらくして、栄彦さんは「あ」と言って、私から離れる。 「ごめん! みっともない姿を見せて」 「いえ、そんなことないです。ただ、少し……嬉しかったです」 「え?」 「栄彦さんのこと、見れた気がして」  私は目を伏せ、栄彦さんに言う。 「ひかりさん、きっと栄彦さんのことを憎んだりしてないと思います。私も父に否定され、家を追い出されましたが。頭では判ってたことでしたから」 「……でも、耀李は」 「ひかりさんも、判ってたと思います。受け入れられないことを。でも、知ってたはず。栄彦さんが、自分のことを本当に愛してるから、簡単に受け入れられなくて、どうすれば良いか悩んでたのを」  だから、きっと。  ひかりさんは、自殺ではなくて。  本当に事故だったのではないか。  もしくは、事件。 「そんなに、思い悩まなくて良いと思います」 「っ」 「それでも、思い悩むなら。思い悩んでしまうなら、私にひかりさんにできなかったことをすれば良いです」  どうですか? と、私が言うと、栄彦さんは頷く。 「そうだね。そうするよ」 「はい」 「たくさん可愛がっちゃうぞ~」  栄彦さんは、私の頬をむにゅむにゅする。 「覚悟しておけ~」  「栄彦さんも覚悟しておいて(はるひほはんもはふほひへほひへ)必ず(はなはふ)私にほれてもらうから(わはひひほへへほはふはは)!」 「あはは、何言ってるかわからんぞ」 「むぅ」 「さて」  栄彦さんは私の頬から私の手に手を移して、立ち上がる。 「帰ろっか。俺たちの家に」 「うんっ」  私は離れないように、ぎゅっと栄彦さんの手を握った。  こうして、改めて。  私の新生活が始まった。  初恋の人に、振り向いてもらうための。  この初恋の上手な育て方を考えながら。

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