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第8話

全て食べ終わり、最後に出されたデザートのけーきをくちにふくむ。 何層も重ねられたパイ生地のような食感の層を抜けると、りんごの程よい酸味と甘みが口全体に広がる。これもとても美味しい。 「りんごのケーキ。はじめてだ。これも美味しい。」 驚いていると、よかったと繰り返しながらアシュリーが紅茶を入れてくれた。程よく甘いケーキとストレートティーがとてもよく合う。 「ごちそうさま。」 ケーキは無くなってしまうのがおしいほど贅沢な味だったので、ゆっくりとじっくり味わって食べた。 アシュリーに全部作り方を教えてもらって、これからたまにこのメニューを作ろうと思った。 席を立ち、洗い物をしにキッチンへ向かう。 と、いきなりドアのガチャリと開く音がして、誰かが入ってきた。アシュリーはちょうど二階に行っている。 …どうしよう、不審者?泥棒? 何か用意しなくては。と考えている間にも足音は近づいてきて、何かしようとすればするほど足はすくんで動かない。 「アシュリーさん!急患です!俺たちにはどうにもできません!」 足音の主は、僕の肩に手を添え、慌てた様子で僕に向かってそう言ってきた。 「あれ、アシュリーさんじゃない、、?お前だれだ?もしや泥棒か?」 それはいきなり人の家にずかずかと入ってきた人間が言うことか。だれだはこっちのセリフだといえる。 …それに、怖い。この人は大人だ。 大人の人は、アシュリーはちがうけれど、みんな僕を殴って、蹴って… 「アシュリーなら今二階に行っていますがすぐ戻ってくると思います。あなたは?」 震える声を、最大限落ち着かせて冷静に見せようとした。大丈夫、世の中には優しい人もいるから。 とりあえず泥棒ではなさそうだから、だれかと質問する。 「俺はノア メイスフィールド。アシュリーさんの助手みたいなもん。 というか、ここ5日アシュリーさんがいきなり休みたいって言い出したのはお前のせいか? アシュリーさんがこんなに連続して休みを取るといったことなんておかしいと思ったんだよ。過労で倒れた時さえも2日しか休まなかったし。」 ノア、と名乗った彼はかなり饒舌なのか、聞いてもいない話を永遠と連ねてくる。もちろん僕には全て知らない情報だし、何も答えようがない。 ノアは片耳にたくさんのピアスをしており、また少し長めのダークブラウンの髪は多少整髪料で整えられている。 雰囲気がどことなく、遊び人のような、、、って、そういうことは考えなくてもいいか。 「仕事の話は聞いたことがないから知りません」 彼は仕事の話を多分僕に話したくないから、だから僕も敢えては聞かない。聞かなかった。 なのに、いきなりこの数分間で随分とたくさんのことを言われて混乱してしまう。 彼以外の人と喋ったのもすごく久しぶりで、それが彼の助手?で彼は5日間休みをとって僕のせいかも知れなくて、でもとりあえず仕事に戻らなきゃいけない? 「というか、アシュリーさんの家になんで 「ノア、この事情は後で説明する。それより今から行くから、それ以上テオを問い詰めないで。 テオ、映画はまた今度。俺から誘ったのにごめんね。」 ドタドタと音がして慌てて出てきたアシュリーは、なぜか白衣を着てその上にコートを羽織っている。 話が聞こえて急いで用意してきたのだろう。 「いってらっしゃい。」 僕には秘密だらけの彼は、その秘密を全て知っている仕事の同僚に連れていかれてしまった。 僕がうまく笑えたかはわからないが、精一杯の笑顔で彼らを見送る。 そして長い時間呆然と立ち尽くした後鍵をかけて部屋に戻り、編みかけの手袋を取り出した。 どんなデザインにしよう、と考えながら手袋を編んである間は、何も考えずに時間だけが過ぎていく…

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