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第15話

「え、今なんて?」 食事を終えた後は、クッキーや昨日食べたのと同じケーキ(シュトーレンというらしい)、生クリームの添えられたスコーンなど、テーブルの中央にたくさんのお菓子が並んだ。 紅茶とどうぞとアメリアさんは紅茶を淹れてくれて、 …そこまではよくて。 その後にアシュリーの言った言葉が信じられず、僕は唖然としてしまった。 「だから、テオはこれから、アメリアさんのところで生活してもらおうと思うんだ。アメリアさんには昨日、話したんだけど。」 よく考えてみれば、その兆候はあった。 最近色々とたくさんの初めてをくれて、家事もほとんどやってくれていた。あんなに悲しそうな顔をしたのも、僕と一緒にいることにさすがに重荷を感じたからか。 3年間も1人で面倒を見てくれたのだ。これ以上わがままは言えないし、きっとアメリアさんのことをこんな僕を預けてもらえるように説得するのも大変だっただろう。 ここで涙を見せれば、アシュリーは優しいからやっぱり俺が預かると言ってくれるかもしれない。 でもその優しさに甘えて彼に迷惑をかけるのは嫌だ。 それにきっと、縁の近いところを選んでくれたのだから、また会える。 それで幸せだ。 一緒に暮らす人が変わるのは3回目だし、こんな素敵な家なら、アシュリーと出会う前の境遇と比べてきっと幸せすぎるくらいだろう。 「アメリアさん、家事は全てやります。至らないところは全て言ってください。与えてくだされば仕事もします。だから、 よろしくお願いします。」 深々と頭を下げる。アメリアさんは少し困ったように笑った。 「そんな、なにもやらなくていいのよ。」 その言葉に、恐怖を覚えた。何もやらなくていいのよ、はやらない代わりに違う見返りを出せということだ。 つまりそれはストレスの発散に殴られたり閉じ込められて苦しんでいるところを見て笑われたり… 「そうね、でも、レオの遊び相手はしてほしいわね。それから掃除と洗濯、あとは、お菓子を作るのを手伝ってほしいわ。うち、お菓子やさんなのよ。」 付け加えてもらい、ホッとした。役割は、そこにいてもいいという証に聞こえる。 もう一度よろしくお願いしますと頭を下げると、アメリアさんは今度は嬉しそうに笑った。 「テオ、時々会いに来るから、元気にね。」 それでも、なんで。 アシュリーの表情は、面倒ごとから解放されて嬉しいはずなのに、とても悲しげで。もしかしたら僕を見捨てたように思って、責任を感じているのかもしれない。 そういう優しい人だ。だから、こう付け加えた。 「ここはとてもいいところで、僕も元気にやっていける。だから心配しないで。幸せだよ。」 うまく笑えたかはわからないけれど、精一杯口角を上げてそう言った。 「じゃあ、テオお兄ちゃんは今日から僕のお兄ちゃんだね!たくさん遊ぼうねー!」 レオの無邪気な子供の声が場を和ませる。 それにつられてみんな笑ったが、僕とアシュリーの笑い声だけ、ひどく無機質に響いて。 「じゃあ、俺はそろそろ帰ります。テオをよろしくお願いします、アメリアさん。」 「もうー、敬語じゃなくていいって言ってるのに。ここはあなたの家なんだから。行ってらっしゃい、アシュリー。」 「はは、行ってきます。」 無理やり微笑んだ彼は今にも泣きそうに見えて、その背はとてもものさびしそうに見えた。 アシュリーを見送ると、アシュリーが使っていたという部屋に案内された。服もアシュリーのものを自由に使っていいと言われた。 かすかに彼の匂いがする部屋で、これから彼のいない生活が始まる。親元を離れる子供は、こんな気持ちなのだろうか。 こんなに、悲しくて、愛おしくて、会いたい、と思いながら、それでも親の迷惑を考えて家を出て1人で生きていくのだろうか。 彼と過ごしているうちに、彼に垣間見える寂しさにぴったり寄り添って、ずっと笑ってほしいと思っていた。 でも、僕といるせいでもしその笑顔が苦しみを含むなら、僕のいないところで笑っていてほしい。

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