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第22話
ああ、そうか。そうだな。同じだったんだ。
「僕も多分、同じだと思う。」
「え?」
「ノアにアシュリーの話を聞いて自分が支えたかったって嫉妬した。
ピアスをあけてもらった日、アシュリーの真剣な表情が近くにあって顔が熱くなったし、その夜はずっとそのことを考えて眠れなかった。
ここ最近は食欲もないし、あんまり上手に眠れない。
アシュリーを独り占めしたい。でも僕といても幸せになれないなら、僕以外の人と幸せになってほしいと思う。」
最初からそうではなかったけれど、次第にきっと好きが色々な意味を持つようになっていた。中でも下に心がつく恋と真ん中に心のつく愛。その2つはどんどん色濃くなっていたのかもしれない。
だから、おそらく僕もアシュリーと同じ気持ちでいた。
目の前でアシュリーは、信じられないというような顔をしている。今日の彼はなんだかすがるような目で見てきたり、泣きそうな顔をしたり、目を丸くして驚いたり、表情がコロコロ変わって忙しい。
そして、立ち上がると、ベッドに座っているような状態の僕を、横からぎゅっと抱きしめた。
「ごめん、テオ、それは本当?」
「ねえ、テオ、
…俺はテオがいないと幸せじゃない。恋人としても、家族としてもずっと一緒にいてくれる?」
あんなにずっと一緒にいる約束を何度も確認するようにさせたのに、それでもなお不安そうに尋ねてくるところが可愛い。
「もちろん。それにずっと一緒にいたいのは、僕の方が上だから。
…1ヶ月の間、一回も来なかったの、すごく辛かった。」
また無邪気な笑みが戻る。
口元を緩めて、目を細めて、顔がくしゃっと崩れるように笑う姿は、一番初め出会ったときに見たまるで作られたような美しい笑みに比べて、もっとずっと魅力的だと思った。
かと思うと、今度はピアスをあけたあの時のような表情をした彼が言った。
「テオ、ごめん。我慢できない。キスしていい?」
そんな顔をされてノーと言えるわけがない。
黙って承諾の意味を込めて目を瞑ると、静かで丁寧に口付けられた。お互いのピアスが触れて小さく音がなる。
長い口づけの間僕は、静かに丁寧にされたのに、ノアの時とは違い爆発しそうな鼓動を、彼に聞かれないようにと心から願っていた。
長く静かな口づけが終わると、アシュリーはまたベッドの横の椅子に腰かけ、赤みを帯びた顔を隠すように遠くを見ながら今度はテオの番だよ、と言った。
「ノアから聞いた。ノアの家に居た女の人と、何があったの?」
アシュリーにあんな告白をさせておいて、自分が黙っているのはアンフェアだろう。僕は覚えている限り全ての、アシュリーに助けられる前までの話をした。
途中からもう怯える必要のない終わった話なのに涙があふれ、アシュリーはずっと背中をさすりながら話を聞いてくれた。
「もちろんあんな状態で路地裏に捨てられていたから、きっと酷い扱いを受けてきたんだろうとわかっていた。でも、許されることじゃない。
それでも生きていてくれて、ありがとう。」
話を全て聞いた後、アシュリーはそう言って彼も涙を流した。震える僕を抱きしめながら、彼はありがとうを繰り返す。
話してくれてありがとう、生きていてくれてありがとう、俺を好きになってくれてありがとう、生まれてきてくれてありがとう、…
たくさんのありがとうは、きっとアシュリーになら辛かったね、と、同情されても嬉しかったと思うけれど、
それ以上にずっと嬉しくて、その1つ1つを噛み締めて、全部忘れないようにしようと思った。
この人が自分の恋人になると思うと、こんなに心が綺麗で大丈夫なのかと心配になる。
ありがとうはいくつも続き、いつか地球にまでありがとうなどと言い出しそうな勢いだ。
だから、アシュリーの口を優しく手で覆い、言葉を止めた。
「アシュリーこそ、出会ってくれてありがとう。」
この人となら、ずっと一緒にいたい。だから彼が望む限りずっと、側にいようと誓った。
恋人として、家族として。
1番近くに。
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