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第24話

「ピアス、もう片方つけてもいい?」 家に帰って身体を洗った後、紅茶を飲んでいたらアシュリーがいきなり聞いてきた。ピアス、、、。 前回のことを思い出すと、少し身構えてしまう。それでも、今は片方ネックレスとしてチェーンに通して首にかけているが、アシュリーみたいにちゃんと両耳につけたいとも思う。 アメリアさんの家にいる間も、鏡を見たり触ったりして、アシュリーがいるみたい、などと考えていたのだ。 「うん。」 「本当に?いやならちゃんと言って。」 アシュリーは答えるまでに少し間が空いてしまったので、心配をかけてしまったのだろう。 「いや、えっと、、、」 心配をかけるくらいなら、言った方がいいのだろうか。いやでも、、、 なんというか、恥ずかしいし。 「ちゃんと言って?わからないのはもどかしい。前、痛かった?」 でも、心配をかけるのはもっといけないことだ。僕が恥ずかしいくらいどうってことない。 「アシュリーがかっこよすぎて一晩中頭から離れなくなるからちょっと身構えただけ。そんなに痛くなかったし、ピアスはもう1つもちゃんとつけたい。」 「何それ、かわいい。」 かわいい?こんな無愛想な子供が変にアシュリーを意識して、イタいだけだ。 アシュリーはなぜか口を押さえて少し顔が赤い。僕を恋愛的な意味で好きになった、というのも、そもそもこの人の感覚がおかしいのかもしれない、と思った。 こんなに整った美しい顔立ちで、頭も良く、優しいのだから、理想の相手がもっといるだろうに。 …これ以上考えても虚しくなるだけだ。やめよう。 「じゃあそこ、座って。」 リビングのソファーに座ると、テーブルの上にはすでに針と消毒用の脱脂綿などが用意されていた。 アシュリーはそれを手に取り、僕の耳たぶを丁寧に拭き取って行く。優しい手つきが心地いい。 ただ、彼の顔を見るとやっぱりいつもと違う真剣な表情をしていて、どうしてもかっこよくて見とれてしまう。見なければ赤くもならないのに、どうしても見てしまうのだ。 「じっとしててね。」 「うん」 答える声が少し上ずったのがわかった。 やっぱり顔が近くに来るとどんどん緊張してしまう。長い睫毛も綺麗な髪も全てが美しく、どこを見てもそれが近くにあることに顔が熱くなってしまう。 気づかれませんように、と今から針を刺されることも忘れぎゅっと目を瞑る。耳元に彼の息がかかる。さっきまで彼が飲んでいたミントティーのミントの香りが鼻を掠めた。 「テオ、かわいい。」 刹那、ありえないほどの色香をまとった声が、耳元から直接脳に響いてきた。なんだこの声。前回とは比べ物にならないほどドキドキする。 「終わったよ。」 肩を揺すられて自分の耳元を触ると、もう一つのピアスが付いていた。アシュリーが大丈夫だね?ともう一度つけたところを確認している。 いつの間に?と驚いた。アシュリーの声のせいで頭がいっぱいで何も感じなかった。 「…ずるい。」 かっこよすぎてずるい、と思った声がそのまま口に出てしまった。 「え、あの、違う」 アシュリーに暴言なんて、何も悪いことされてないのに。慌てて訂正しようとしても、上手い言葉が出てこない。 「ずるいのはテオだよ。…もう、かわいい。」 いきなり抱きしめられ、同じ声音で言われた。こんなの心臓がもたない、と思いながら、それでもその温もりに安心する。 針を刺されたのに全く違うところに意識がいって、何も感じなかった。今はじんわりと痛みがあるけれど。 そういえばピアスのことを言及されたときに、ノアが“アシュリーさん針を刺すの上手いからな。意識がちがうところに言ってる間に終わらせるから。”みたいなことを呟いていたけれど、たしかに気がそれている間に終わってしまった。 いつもこんな感じなのだろうか。 「…アシュリーの患者さんは大変だね。」 また、思っただけなのに口に出してしまった。今日は疲れているのか、頭がふわふわしている。 「え、なんで?」 驚いたように言われ、体が離れる。あ、もう少し抱きしめて欲しかったな、などと残念に思う自分は本当に子供だ。 「意識をそらすためにあんなに色気のある声で囁かれたら、心臓がもたない。」 素直に言うと、アシュリーが目を丸くした後、手で口をおさえて笑い始めた。おかしいことを言っただろうか。 「あははっ。いや、色気があるかはわからないけど、あんなことテオにしか言わないよ。 ごめん、ついテオが可愛くて笑いが、、、。今日はもう寝ようか。」 ひとしきり笑うと、アシュリーはなぜか避けるように自分の部屋に行ってしまった。どうしてか顔が赤かった気がする。風邪かな? とはいえ、笑い飛ばされたおかげで今晩耳について離れなかったはずのあの声音のことが少し気にならなくなった。 色々あったしよく眠れそうだ、と思い、歯を磨こうと水道のところに向かう。 鏡に映る自分の両耳にどちらもアシュリーの目の色のピアスが付いていて、くすぐったいような嬉しさを感じる。 電球の光が綺麗に乱反射してきらめくそれが、今日の僕の目にはなぜかいつもより明るく映った。

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