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最終話②

「テオ、なんでこんなことしたの…?」 ずっとこちらを向かずに個室になっている控え室まで歩いていき、そしてやっとこちらを見た恋人に、優しく聞いてみる。 悲しくはない。怒ってもいない。ただ、ちょっと驚いている。 「…怒った?」 上目遣いでこちらを伺うようにじっと観察してくる姿は、とても愛らしい。 先ほどまでの堂々としていた様子が嘘のようだ。悪いことをして叱られた子供のように、しゅんとしている。 「怒ってないよ。だからちゃんと言って。」 よしよしと頭を撫でれば、少し安心したように上を向いてくれた。 「アシュリーが噂のことを気にしているのは知ってた。でも、お客さんにさらっと聞いても、街中で雑談として話しても、その噂なんて、もう誰も気にしてない。 アシュリーは髪も肌も瞳も全てが綺麗だから、もう、僕の隣を歩くときくらい、そのままの姿でいて欲しいんだ。耐えられない。 ずっとその孤独を、僕は拭えないままなの?」 テオの言葉にハッとする。 よく考えれば、賞なんかには興味がなく、全て断っていた。そんな彼が、なぜかこの街で授賞式をするこの賞だけを、いつも欲しいと言っていた。 テオはいつも、俺が街に行くときに自分を隠すのを、そんなのいいのに、くらいに言っていたが、本当はずっと、気にしていたのか。 こんな場を使ってまで、もう気にしなくていいよと証明したかったのか。そして、実際もう、自分以外誰も気にしていなかった、、、。 「テオ、少しだけ、泣いてもいい?」 もう終わった。そこまで気にしていないと自分では思っていたはずなのに、振り返ってみると心のどこかでずっと気にしていた。 終わったことが嬉しいはずなのに、同時にいつまでもそのことに縛られていたという事実に、突然今まで空虚な時間を過ごしていた気がして、テオにしがみついて泣いた。 「今までの分、全部泣いていい。でもそのあとは僕がアシュリーのためにデザインした服を着て、新作発表に付き合って欲しい。」 俺よりも小さいはずなのに、大きく感じる。夜は可愛く抱かれているのに、今はこんなにも頼もしい。 よく彼に俺がそうしているように、彼は俺の頭を優しく撫でてくれた。 辛かった、と声に出すと、止まらなくなった。ここまで苦しんでいたことを知って1番驚いているのは自分かもしれない。 テオは全く驚くそぶりもなく、ただ少し嬉しそうにしている。 「アシュリーが僕にしてくれたみたいに、僕もアシュリーに与えられたかな?」 どれだけ時間が経っただろう。全ての涙を出し尽くしたあと、テオが俺の顔を温かいタオルで拭いながら聞いてきた。 そんなことを気にしていたのか。テオになにかを与えた記憶はない。むしろ俺が与えられてばっかりだったのに。 「もちろん。1番近くで、いつも寄り添ってくれてる。 今日も、本当にありがとう。」 言われてふわっと微笑む顔が可愛らしい。出会った頃の無表情な彼もそれはそれで可愛かったが、表情がついた後は絵に色がついたように余計に素敵になったと思う。 「よかった。 …うん、似合ってる。想像通りぴったりだね。」 渡されるままに着替えると、テオは満足そうに頷きながらタイを締めてくれた。本当に俺にぴったりだ。身体を動かしても、全く抵抗がなく、ぴったりとついてくる。 しばらくして、ノックとともにそろそろですという声がする。 「行こう。」 大切で、1番近くにいると約束してくれた人。彼は出会ってからずっと、俺の孤独をどんどん壊していった。 家と病院で構成されるあの建物以外では、そのままの姿でいるのが怖かった。だからそのままの姿で普通に人前に立てることが、嘘のようで。 テオが手を引いて、一歩一歩ステージに近づく。緊張もするが、それ以上に今は温かい気持ちが胸を占めている。 テオのピアスが天井の明るいライトに反射して揺らぐ。何よりも美しく映ったその光景を、俺はきっといつまでも忘れない。 会場が温かな拍手に包まれた。きっとこの空間の全ての人が、彼のことを祝福している。 テオドール。偶然道端で拾った彼は、その名の意味通り、神様からの贈り物なのかもしれない。そしてそれは俺にとって、いつまでも一番近くにあってほしい、かけがえのない宝物となった。 『毎年〇〇で行われる××の授賞式が今年も開催された。今年の最優秀賞に輝いたのはテオドール・シャーロック氏(24)。彼のデザインは今や、国中で評価されている。 (中略) 授賞式の最後には、彼の最新作を、唯一の家族であるというアシュリー・シャーロック氏(33)が着て登場した。常にデザインのモデルであったとテオドール氏が述べる彼は、誰もが声を失うほどの美しさで、新作を着ての登場に会場内は湧き上がった。 「1番近くで僕を支えてくれた人です。」と、テオドール氏は彼について供述。2人の出会いと、それにより築き上げられた美しい家族愛に、会場全体が涙した。 18〇〇.1.14 △△社朝刊より』

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