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お礼ss 「Thank you」①
※アシュリーsideのお話です。時間軸的にはアシュリーの誕生日の前くらいのお話です。
「ねえ、今日も何かあるの?」
食事中、テオがふとそう聞いてきた。美味しそうに目の前のパスタを食べている姿が可愛らしい。
そう、今日は確かに、大切な日だ。
でもなんで気づいたのだろう。
「なんでそう思うの?」
「今日のご飯が豪華で、思い返してみると毎年この時期にアシュリーが色々買って帰ってきた日があった気がして。」
ご名答。バレないようにしていたつもりだったけれど、俺にとって特別な日だから、毎回食事を少し贅沢にしたりこっそり洋服を買ったりと、ささやかなお祝いをしていた。
いつもよく見ているなと思っていたが、付き合ってからは彼はより俺について聡くなった。そんなところも愛おしい。
「そうだよ。なんの日だと思う?」
大切な日はいくつもある。テオと暮らし始めてすぐは毎日が記念日のようなものだった。
それでも今日は、一緒にいたいと言ってくれた日の次に大切な日だ。
…まあ、テオはきっと覚えていないけれど、なんとなく聞いてみたくなった。
「僕に関すること?」
「そうだよ。」
じっとこちらを見て、口の中のものを飲み込むことも忘れ一生懸命なんだろうと考えている。
大きな目が丸く開いているのが微笑ましくて、思わず口が綻んでしまった。
「わからない。教えて欲しい。」
「いいよ。」
話はテオと出会って半年経ったところまで遡る…。
働くようになって、これ以上アメリアさんに迷惑をかけられないとあの家を出た。そして病院の上の昔両親と暮らしていた家に一人で住んでいる。
両親と一緒に暮らしていた頃はあんなに温かかったはずなのに、1人で過ごすこの家は、ただ広く、冷たい箱だった。しかしそれも半年前から変わり始めた。
病院から自宅への階段を上っていくと、ふんわりと温かい香りが鼻をかすめる。
つい明かりの灯る窓を覗いて微笑んでしまう。それは誰かがいる証。
「ただいま。」
鍵を開けてただいまを言うと、中からあわただしい足音が聞こえてくる。それが微笑ましくて少しの間玄関でじっとしていると、くりっとした大きな目の少年が出てきた。
彼はテオ。路地裏で死にかけていたのを偶然見つけて手当てしてから、今は一緒に暮らしている。
言葉を発することができず、表情に乏しい彼だが、実はとても頭が回る子だ。俺のことをよくみていて、驚くほど細かい気遣いができる。
自分の14の頃はどうだっただろう、と考える。おそらくこんな風ではなかった。そしてこの子の置かれていた環境を思い、切なくなった。
駆け寄ってくる彼を優しく抱きしめると、すりすりと顔を寄せてくる。嬉しそうに微笑む姿が可愛らしい。
せめて、ほとんど与えられなかったであろう愛情を彼がたくさん感じられるように、スキンシップを多くとるようにしている。
夕食を作っていたのか、彼の服からはスープの香りがする。
「中に入ろう。」
囁きかけると、こく、と頷かれた。
中に入るとテーブルには2人分の食事が並べられていて、まだ温かい。帰る時間を見計らって作ってくれたのだろうか。
「ありがとう。美味しそう。」
いつもお礼を言っているが、彼は最初その度に不思議そうな顔をしていた。
文字を書いて話すときもいつも謝ってばかりいたから、ありがとうの意味を教えた。
彼は感謝されるようなことはしていないのにと返しながらも、それからありがとうと言われるたびに少し目の色を嬉しそうに変えるようになった。
今もおそらく喜んでいる。
「いただきます。」
最初は焦がしていた目玉焼きも、薄かったスープも、美味しく作れるようになった。もちろん作って一緒に食べてくれるだけで嬉しいけれど、美味しくなるようにしてくれた努力が愛おしい。
「美味しいよ。」
そう言ってから、他愛のない会話をする。例えば天気の話とか、新聞に書いてあった話とか。返事は返ってこなくても、テオはしっかり耳を傾けて聞いてくれる。それがわかるから嬉しい。
1人で食べる食事はまずいと誰かが言っていた。そんなことないとずっと思っていたが、テオが来てからの食事は、前よりずっと美味しい。
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