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10.

「本当に、慧君は俺のことをよく分かってるね。慧君の言う通りだ」  小さく呟いたリカは、慧の指に自身のそれを絡ませる。ローションで汚れた慧の指は綺麗ではないはずなのに、自分のものよりも格段に美しく見えた。穢れを知らない、無垢だ。  この手がとるのは、本来なら自分ではなかったはずだ。この手をとるのは、自分には許されなかったはずだ。それなのに慧はリカを選んでしまった。  ――好きだから。  たったそれだけの理由で。それだけの理由で慧はリカの時間を動かした。あの真っ暗で冷たくて、気が狂いそうな孤独からリカを引っ張り出した。たかが十数年生きてきただけの子供が。 「慧君の手は綺麗だ。綺麗で温かくて、優しくて。魔法の手みたい」  じっと自分の手を凝視するリカに、慧は首を傾げて言う。 「リカちゃん、なに言ってんの?」 「自分でも良く分かってない」 「は? まあいいけど。ってか、綺麗なのはリカちゃんの方だと思うけど。ああ、違うか。なんだろ、綺麗じゃなくて……いや、綺麗は綺麗なんだけど」  何かをぶつぶつと呟いたかと思えば、今度は慧からリカの指をとる。絡め合って、柔く撫でて。それからぎゅっ、と握って慧は言った。 「すごい手ってのが、俺が言いたいことに一番近いかも。指が細くて長くて、見た目は綺麗なのに時々意地悪で。でも料理が上手くて、なんでも器用にできる。うん、リカちゃんの手はすごい手だ」  自分の言ったことにしっくりときたのか、慧が頷く。それを見たリカの目から、透明な雫が一粒落ちた。それは頬の一番高いところを越えて、顎へと伝う。今朝替えたばかりのシーツに吸い込まれ、消える。満足感に浸っていた慧に気づかれることなく零れた涙に、リカは顔を伏せた。 「ほんっ、と……慧君には驚かされてばかりだ」  星一はリカの手を素敵な手だと言った。慧はすごい手だと言った。言葉は違えど、星一と全く同じように褒めたのだ。  外見はあまり似ていなくて、性格は全然違う。星一はここまで単純ではなかったし、喧嘩っ早くもなかった。怒りっぽいところは似ていても、表現の仕方が異なる。まったくの別人だ。  それなのに二人とも、リカを認めて受け入れる。星一は一番の友人として、慧は唯一の恋人として。リカの不甲斐ないところですら、受け止めてしまうのだ。だから敵わない。 「慧君、ありがとう」  俯いていた顔を上げたリカに、慧の謎は深まるばかりだった。突然手を握られたかと思えば、突然わけの分からないことを言われ、突然俯いたかと思えば、突然に告げられた感謝の言葉。まったくもって意味が分からない。  それでも、あまりにもリカが穏やかに笑うものだから、湧いていたはずの怒りは消えてしまった。リカの過去の相手に対する嫉妬心も、今ではどうでもよく思える。 「よくわかんないけど、リカちゃんが反省してるなら、今日は特別に許してやる」  でも次はないから、と続けた慧は繋がったままだったリカの手を自分の頬に添える。そっと頬ずりして、少しの躊躇いの後に口を開いた。 「だから、続きしよ」 「続き?」  普段は嫌になるぐらいに鋭いのに、どうしてこういう時だけ鈍いのだろう。わざとじゃないのかと疑いつつ、慧はリカを見た。けれど冗談ではなく、大真面目に考えている顔を見て、呆れた。一回り近くも年上の男を、つい可愛いと思ってしまった。 「あー……一回でも恥ずかしいのに、なんで二回も言わなきゃダメなんだよ。ふざけんなよ、お前」  一人ごちた慧は、握っていたリカの指に爪を立て、軽く引っ掻く。なけなしの反抗心をそれで示した後は、頭を振ってやけくそ気味に言った。 「もう一回相手してやるって言ってんだろ。三回目はないからな! これが最後のチャンスだから!」  頭突きすらしてしまいそうな勢いで言った慧は、高圧的な台詞と共にリカに詰め寄った。それは慧の照れ隠しだったのだが、次の瞬間に照れなど拭き飛んでしまった。 「――ンッ⁈」  性急に潜り込んできたリカの舌が、慧の口内を犯す。さっき指で散々愛された口の中が、今度はリカの舌で乱される。好き勝手に動き回り、慧の弱いところを時折責めては逃げていく。翻弄される、とはこのことだった。 「やっ、ん、アッ……ふ、う」  捕らえることのできない舌。声を我慢するなんて誓いはとうに崩れ、唾液と共に嬌声が上がる。息継ぎすら許してもらえない。 「リ、カちゃんっ……ア、待っ……んぅ」  のけ反った首が痛くて、どんどん身体が後ろへと倒れていく。覆いかぶさってくるリカの動きが、なぜかスローモーションに見えた。見えていた世界が、リカで占められる。そうなればもう、他は何も考えられない。 「はっ、あ……や、だぁッ」  唇を散々に貪った後は、首筋を辿って下へ。途中で痕を残すのを忘れることなく、けれど急ぎ足でたどり着いた胸の頂。主張していた慧の乳首に、リカは予告なく歯を立てる。 「ああッ」  いきなり襲ってきた強い刺激に、慧は腰を跳ねた。すると今度は、浮かせたそれをすぐさま退く。 「気づいた? 慧君と同じように、俺のも限界」  身体を跳ねさせた瞬間に触れたもの。それはリカの主張した下肢で、慧は太ももに感じた熱量の凄まじさに慄いたのだった。あまりにも熱く、硬く、大きい。十分すぎるほどに膨らんだものの存在を知ってしまい、怖くなった。そして欲しくなった。 「早く慧君の中に入れて」 「そん、なこと……ッ、ア、言われてもっ」 「慧君は? コレで大好きなところ突いて、奥にいっぱい欲しくない?」  赤く尖った頂にリカが舌を這わす。唾液に濡れたそこは、ツンと尖って天を向いていた。微かに震えているのは、まだ足りないからかもしれない。  物欲しげな視線を向ける慧に気づいたのか、リカが両方の頂を指で挟む。右と左、どちらも捉えられた慧は、ゴクリ、と喉を鳴らした。      ――続きは後日配信の『リカちゃん先生の好きなひと』よりご覧くださいませ。

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