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ひじきの絨毯

「ん……っ」  葡萄色の瞳が瞼の奥からゆっくりと姿を現し、やがてふたつの眼がパチパチと瞬いた。  首だけを捻ってそこに誰もいないことを確認し、耳を澄ませる。  すると、遠くから水の流れるくぐもった音が聞こえた。  ホッ……と安堵のため息を吐き、ピンクは上半身を起こした。  だがすぐに全身を硬直させ、下半身を襲う違和感に耐える。  やがて脈打つようだった鈍痛が遠ざかっていくと、ピンクはもぞもぞとシーツの間から抜け出した。  両足の裏をぺったりと床につけると、無機質な低温が背中を駆け上っていく。細い身体をふるりと揺らし、ピンクは後ろを振り返った。  数時間前までは皺ひとつなかった白いシーツがぐちゃぐちゃに乱れ、さらに黒いなにかがあちこちに散らばっている。縮れたそれは―― 「今日もひじきがいっぱい……!」  実際どれくらいが昨晩のうちに抜け落ちてしまったのかはわからないが、白と黒という極端なコントラストのせいでものすごく大量に見える。  ピンクは、ベッドのサイドテーブルに手を伸ばしそれを持ち上げた。  プラスチックのカバーを外し、現れたローラーでシーツの上をコロコロする。  向こうへ、こちらへ。  掃除用のローラーテープが行ったり来たりするたびに、白い接着面が波打つ黒い線の集合体にどんどんと覆われていく。  代わりにシーツの皺が伸びて、本来の白さを取り戻していった。  ローラーをかけたところが道のように浮き彫りになり、ピンクはまるでモーゼの海割れのようだと思った。  そう、まさにこれは―― 〝コロコロのひじき割れ〟  たった三往復したところで黒いもじゃもじゃの層にすっぽりと覆われ、粘着力を失ってしまうコロコロ。  ペリペリペリペリ……と音を立てながら一周分を剥がし、ピンクはため息を禁じ得ない。 「もったいないなあ……」  燃えるゴミとして廃棄される運命を待つだけの哀れなひじきの大群を見つめながら、ピンクは昨夜のちんリウム・パーティーに思いを馳せた。  *** 「あっ……はぁんっ……ブラックゥ……っ」  切なげな息を漏らしたピンクを見下ろす紫水晶(アメジスト)の瞳が、暗闇の中怪しげに艶めく。 「気持ちいいかい?ピンク……ッ」  自分も息を切らしながら、ブラックはピンクの桃尻に強く腰を打ちつけた。 「いいっ……きもちいいっ……!」  内臓を突き上げられ仰け反りながら、ピンクは与えられる快感を素直に受け入れ喘いでみせた。  念願だったパーフェクト・ちんリウムを達成してからというもの、ふたりのちんリウム・パーティーは日に日に激しさを増していた。  最高強度のスプリングを備えた変態レンジャー司令塔御愛用のベッドが、耳障りな雑音を響かせて軋む。  あまりに激しく揺さぶられ、ピンクの手が宙を彷徨った。 「あっ、あっ……あぁん!」  思わず掴めるものを手探りすると、そこはブラックの茂み。  ブチブチィッ……と音と立ててひじきが毟り取られてしまったのに、ブラックは僅かに顔をしかめるだけで、巨大ちんリウムを出し入れする動きを止めなかった。  ブラックのひじきは24時間後に再生する。  だから気にならないのかもしれないが、ピンクは不安を拭きれなかった。  ブラックは怒っているのかもしれない。  自分はできそこないだから。  ム・ナーゲ族としても。  変態レンジャーとしても。  彼の恋人としても――…  考えれば考えるほどネガティブ思考のドツボにはまってしまい、ピンクは歯を食いしばった。  シーツに散らばったままだったひじきの欠片たちをかき集め、出来上がった漆黒のもじゃもじゃボールを鷲掴みにした。  それを口元に運んだ――ところで、大きな手に咎められる。 「こら、だめだよ。この間しこたま食べてお腹ピーピーになったのを忘れたのかい?」  シャワー上がりのブラックの黒い髪から、ぽたぽたと水滴が落ちてくる。  その源を手繰るように見上げると、慈愛に満ちたふたつの瞳がピンクを見下ろしていた。  ふいに、視界が滲む。 「ピンク?」 「俺、なにかした……?」 「え?」  「なんで最近ちんリウム振りまくってるの?なにか……怒ってる……?」  穏やかな沈黙……ののち、俯いた頭の上で空気が笑った。 「安心しなさい。私は怒ってなんかいないよ」 「ほんと、に……?」 「本当だ。ただ、可愛いお前を前にするとちんリウムが勝手に輝いてしまうだけさ」  その時、突然ブラックの股ぐらの果実が輝き始めた。  まるで、持ち主の言葉を証明しようとするかのように。 「うっ、眩しい!」  神々しい光に照らされ、ピンクは目を開けていられなくなってしまう。  閉ざされた視界の向こう側で、淡い熱がピンクの頰を躊躇いがちに辿った。 「大人気ないと、軽蔑するかい?」 「そんなわけない!嬉しいよ、ブラック……」  なんとか瞼を押し上げようとするが、途端にちんリウムの光がカアアァァッ……と勢いを増し、ピンクの頭の奥を白く染め上げてくる。 「ブラック……ブラック……!」 「私はここだよ、ピンク」  愛しい人を求める小さな手を受け止め、ブラックはそっと口づけする。  ピンクの身体がビクンと跳ねた。 「ブラック……」 「ああ、わかっているよ」  ちんリウムの閃光に包まれながら、縮れたひじきの絨毯の上でふたりの影が重なった。  fin

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