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第3話
そんな【非日常】を【日常】だと感じ始めてきてしまった、ある月曜日の放課後。
いつの間にか俺と箱根が、教室で二人きりになっている、今。
──現在に、話を戻そう。
「……おかしいぞ、登坂」
──なにが?
と、言わなくても勝手に話し始めるのは自明の理、というもの。なので俺は、特になんの反応もしない。
「オレたち、出会ってそこそこ経つのに……思えば連絡先すら交換してねぇじゃねぇか」
「あぁ、確かに。登校日はいつも一緒にいるから、必要性を感じたことがなかった」
「ド正論!」
後ろの席に座っている箱根を振り返り、俺はスマホをいじりながら返事をする。
「ってか、オレの話聴いてるなら交換しないか、普通? 今、登坂スマホいじってんだろ」
「必要性がないのに、なんでそんな不利益なことしなくちゃならないんだよ」
「ダチと連絡先交換するのを『不利益』って言う奴、初めて見たぞオイ!」
今日も箱根は相変わらず──いや、一段と五月蠅い。休み明けは特に、いつも以上の五月蠅さだ。
箱根は前髪に付けているヘアピンがズレることも気にせず、自分の机に突っ伏して、嘆き始めた。
「あぁ~あッ! 初めて会った時から全ッ然、関係が進んだ気がしねぇ……ッ!」
「友達になっただろ」
「オレはさぁ、交際を前提に登坂とセックスしてぇんだよ……」
──シンプルに、クズだ。
こんな馬鹿が『性交』って言葉を知っていたことに、今は驚愕しかない。
俺はスマホの画面を消して、箱根を横目で見る。
「諦めれば?」
「……諦め、だと…………?」
──瞬間。
──箱根の肩が、ピクッと、動いた。
そして箱根が突然、顔を上げる。そのまま俺を見ると、ニヤリと不敵に笑ったではないか。
「ふっふっふ……! それは、オレが土日に【なにをしていたか】を聞いても言える言葉か? あァ?」
「手短に」
「ドライな反応だな!」
箱根はそう言うと、自分の鞄の中から茶封筒を取り出し始める。そのまま鞄から取り出した茶封筒を、箱根は俺へ見せつけるように、掲げ始めた。
箱根はなおも、不敵に笑っている。
「これがなにか……お前に分かるか、登坂?」
「箱根……っ! お前、学校辞めるのか……っ?」
「退学届けじゃねえ!」
律儀にツッコミを入れた後。
箱根は茶封筒の中から、紙の束を取り出した。
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