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第2話

 それからの箱根は、凄かった。  毎日の挨拶は基本として、休み時間はいつも俺に話しかけてくる。  当然、逃げようと思ったことは何度もあった。だけど俺の後ろの席が箱根なのだから、逃げられるはずもないのだ。  箱根とは対照的な容姿をしている俺は、真っ黒な髪をパーマなんてかけることもせず、校則違反にならないよう切り揃えた髪型で。優等生とは言い切れないスタイルを挙げるとすれば……制服のブレザーの中にパーカーを着ている、ということくらい。  まぁ、表面的に見ると俺は【どこにでもいる普通の高校生】だろう。  そんな俺からしたら、箱根は見てくれだけなら完全に不良。だから、正直『カツアゲでもされたらどうしよう』とか、最初は思っていた。  ……が、話してみるとビックリ仰天。アイツは、優しい奴だった。  オマケに会話が弾んで楽しいときもあるのだから、驚きだ。  ──つまり、箱根は俺のイメージしていた【不良像】とは全く、違った。  ……かと言って、だ。じゃあ『なにもされていないのか』と訊かれれば……微妙に、答えは『ノー』だ。  じゃあなにをされたのか、と言うと。  ──主に、プレゼントをされている。  ……『プレゼント』と言えば、勿論、聞こえはいいだろう。  が、さっきの質問の答えが『ノー』になる理由は、プレゼントの内容のせいだ。  ──可愛くラッピングされた、コンドームの箱。  ──『犬派か猫派か』と訊かれて『犬派』と答えたら、犬のシールが何枚も貼られた、ローションボトル。  ──しかもその流れで渡される、意味深でしかない箱ティッシュやポケットティッシュ。  ……正直、広い心で見てやれば、ティッシュくらいなら貰っても困らないからセーフかもしれない。……セーフかもしれないの、だが……。  ……他の物が、なぁ?  それ以上なにを言いたいのかは、察してほしい。こんなことで語彙を使いたくはないのだ。  そんな箱根はプレゼント以外にも、そこそこ遠回しなことをしてきたりする。  具体的なことを話すと、俺の机の上にわざとらしく保健の教科書を開いて置いていったりするのだ。……まぁ、言わずもがな単純に迷惑だった。  しかもそのページが【男の体】についてのページなのだから、なおさら厄介だ。  たぶん、男の体について興味でも持たせたいのだろうけど……クラスの女子が通ったりしたら、気まずさしかない。  そんな箱根に、俺のどこをどう好きになったのかと訊いてみたこともあった。  すると、答えはこう。 『──顔が一番だけど、それ以外でも……なんて言うか、遺伝子レベル? なんかさ、性交しないと逆に失礼な感じ』  答えが答えなだけに、俺はそっと空を仰いだりして……。  ──コイツは、俺の手には負えないな。  そう、思い知らされたものだ。

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