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第5話

 手作りのプレゼン資料を机の上に置いて、箱根は俺を見た。  眉間には深いシワが刻まれ、目付きは鋭い。  しかし、それでも俺は臆することなく、続ける。 「俺へのプレゼン用にわざわざ紙とかを買ってきたんだろうな。で、休みを削って考えたけど、俺は見る気が無い。全くな。それがお前の言い分だと【無駄】ってことになるんだろ?」  俺はブレザーのポケットに両手を突っ込みながら、不愉快そうに顔をしかめている箱根を見上げた。  俺の言葉に、箱根はどんどん苛立ちを募らせているのか……目付きの鋭さが、どんどんと増していく。 「俺に見てもらえないだけで無駄になる。つまり、それでしか昇華されないプレゼンなんて製作中はさぞ苦痛に満ちていたんだろうなと思ってさ」 「ざけんなッ!」  ──不意に。  ──箱根は俺の胸倉を掴み、さらに鋭い目付きで、俺を睨み付けた。  見た目は物静かな印象の俺が、クラスでは悪い意味で目立っているクラスメートに胸倉を掴まれている。  ……周りから見たら、まるで恐喝。そう思わせてしまうくらい、迫力がある構図だろう。 「登坂を口説くためのプレゼンを考えていた二日とちょっとが……ムダだって? 苦痛だったって言いたいのかよッ!」 「違うのか?」 「なんでよりにもよってお前からそんな風に言われなきゃいけねぇんだよッ! ムダか苦痛かどうかだと? そんなの……そんなのなぁッ!」  箱根は再度、目力を強くする。  そしてそのまま、力強い口調で。  ──怒鳴った。 「──最高でしたッ!」 「──ならいいだろ」  箱根は俺の胸倉を掴んだまま、尚且つ睨み付けたまま怒鳴り続ける。 「おま、お前なぁッ! こちとら製作中、ずっとお前のこと考えてたんだぞッ! 充実しかしてなかったに決まってんだろッ!」 「箱根」 「寝ても覚めても登坂のことしか頭になくて、全然寝た気がしないんだよこっちはッ! おかげで寝不足だぞゴラッ!」 「箱根」 「そんな登坂尽くしな休みが『最高』って言わないでなんて──」 「──箱根」  一人でどんどんヒートアップしていく箱根の名前を、数回呼ぶ。そうすると、箱根はやっと俺の呼び掛けに気付いたらしい。  ──そんな箱根を。 「──手、離せ」  ──今度は俺が、睨み付けた。  箱根は、俺がブレザーの下に着ているパーカーからすぐに手を離し、俺を解放する。  その後、小さな声で「スマン……」と呟いて、椅子に座り直したのだった。

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