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第1話
ルルベルト家。
そこは、この小さな国――イラウェン王国で一番の資産家。
ボク、ロザリア=ルルベルトは、そこの長男として生まれた。
ルルベルト家の長男。
だから、ボクも有名人。
だけど……。
ボクは、ルルベルト家の長男以外で、有名だ。
それは、病弱だということ。
病弱坊っちゃん。
存在不確かなルルベルトの坊っちゃん。
そう言われている。
確かに、ボクは病弱で家からあまり出られない。
一人にして、とても広い自室に、ボクはいつも寝ている。
✟
「坊っちゃん! ロザリア坊っちゃん!」
使用人の女性、リリアが、ボクの名前を呼ぶ。
「ロザリア坊っちゃん、ついに本日から高校生ですね!」
「そうだね、リリア」
「ええ、本日から私が坊っちゃんの勉強を見させていただきます。よろしくお願いします!」
「うん、よろしく」
ボクは頷き、リリアから高校生の内容を教わる。
国語、数学。
世界史。
この国の歴史については、嫌というほど学んだ。
イラウェン王国の歴史は浅い。
まだ三百年ほどしかない。
その王国を支えているのが、我がルルベルト家。
暫く勉強をしていると、リリアが窓の向こうを見る。
「坊っちゃん、本日はここまでにしましょう。そろそろ夕飯の時間です」
「そうか? リリアの勉強、面白いから時間を忘れてしまっていたよ」
「坊っちゃん、お上手になりましたね」
ふふっ、と笑い、リリアはボクに礼を言い、片付けをする。
その姿を見ながら、ボクはぼんやりと家のことを考える。
ルルベルト家の歴史は、イラウェン王国よりも古い。
が、その実態のようなものは不明だ。
どこから来たのか、とかも。
父さんに訊いても、父さんも知らなかった。
リリアに訊いてみようか、と思ったが。
勉強の疲れからか、ボクは咳をし。
夕飯ができるまで寝ることにした。
✟
夕飯も食べ終わり、ボクは自室で今日の復習と、明日の予習をしていた。
暫くし、少し疲れを感じ、背伸びをボクはする。
チラリと時計を見ると、深夜の一時を指していた。
――そろそろ眠ろう。
勉強道具を仕舞い、ボクはベッドに横になる。
同い年の人は、きっと学校に通い、友人をたくさん作っているのだろう。
リリアから聞いたことがある。
中学生、高校生というのは青春時代とも言うらしい。
恋愛や友情などで、毎日が輝いているのだと。
ボクも、丈夫な身体だったら、それを経験できたはず。
勿論、今の生活は悪くない。
友人はいる。
だけど、恋というものをボクは知らない。
「恋愛って、どんなものなのだろう……」
ぽつり、と呟き、ボクはそっと瞼を閉じる。
と、隣の部屋から物音が聞こえた。
ボクは、気になり、そっと自室を出る。
――物取りか?
ドキドキしながら、隣の部屋に行くと、部屋は少し空いていた。
その隙間から、中の様子を覗くと。
一人の背の高い男が、リリアを抱き寄せ、首筋に牙を当てようとしていた。
それはまるで吸血鬼のよう。
「ひっ」
悲鳴を上げようとした瞬間。
男――吸血鬼はボクに気づき、ギロリと睨みつける。
逃げないと殺されてしまうかもしれない。
だけど、動けない。
ガタガタと震えるボクに、吸血鬼はリリアを放り。
ボクを抱き寄せ「黙れ」とキスをする。
驚くボクに、吸血鬼は舌打ちをし「まじぃ」と言い、窓から飛び去って行った。
彼の姿が消えた瞬間。
ボクは、動けるようになり。
リリアの元へ行く。
リリアは気を失っており、ボクは彼女をおぶり、ベッドに寝かせた。
――あれは、悪い夢だった……のか……?
だとしても、ハッキリと残っている。
唇を重ねられた感覚。
その時に感じた、氷よりも冷たい何か。
ボクは、それを忘れようと、首を横に振り、自室に戻った。
✟
翌朝。
いつもように目を覚まし、朝食を食べていると。
父さんが、ボクを呼ぶ。
「本日から、お前専属の新人の執事を用意した」
「専属……?」
「ああ、お前も年頃の男の子だ。親には言えぬ悩みなどができる。私もそうだったからな。そういうときに、きっと助けになってくれるだろう」
入れ、と父さんに言われ、ボクの前に一人の背の高い男が現れた。
それは、昨夜、リリアを襲おうとし、ボクに口止めのキスをした吸血鬼だった。
ビクッとするボクに、吸血鬼はニコッと笑う。
「ヴィアンテと申します。よろしくお願いしますね、ロザリア坊っちゃん」
確かに笑ってはいる。
だけど、目は笑ってなくて、とても冷たい目をしていた。
それは、まるで昨夜のことを話すな、と言うような雰囲気だった。
ボクは、引きつった笑みで、吸血鬼――ヴィアンテに言う。
「よ、よろしくお願いします……。ヴィアンテさん」
こうして。
ボク、ロザリア=ルルベルトと、吸血鬼、ヴィアンテの新生活が始まった。
始まってしまった。
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