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第2話

 朝食を食べ終わり、ボクはいつものように、自室に戻る。  ボクの後ろを、ヴィアンテが歩く。 「坊っちゃん」  ボクの名前を呼ぶ、ヴィアンテに、ボクはビクッとする。 「な、何……?」 「私は執事として、まだ新人。なので、坊っちゃんの一日のスケジュール等を教えてくださると助かるのですが」 「あ、えっと……。いつも、ご飯とお風呂以外は、自室で勉強をするか、寝ているか、だよ」 「……ほぅ」 「今日は、確かイリア先生が来てくれるから。勉強は、そこそこかな……」 「イリア先生?」 「そ、そう。ボクの主治医。イリア=ランテス先生」 「……ふぅむ」  医者(メディコ)ね、とヴィアンテは呟く。  その声が、何か気になって、ボクは振り向く。  すると、ヴィアンテはニコッと笑い「では」と言う。 「今日は勉強はお休みにしましょうか」 「え?」 「お医者様がいらっしゃる日、ということはあまり無理をして、体調を崩されたら……と思うと心配です」 「は、はぁ……」 「それに、色々とこの家の話を聞かせてほしいのです。何せ、私は本日が初日ですから」  ね? と、ヴィアンテは妖しく笑った。  ボクは、ビクッとしながら、小さく頷いた。 ✟  自室の扉を閉め、ホッと一息を吐くと。  ヴィアンテが、低い声で「おい」とボクに言う。 「坊っちゃんよぉ、主治医の名前をもう一度教えろ」 「え、な、何? 何ですか」  急に敬語ではなくなった……?  まあ、きっとボク以外の人がいるから、ということだったと思うけど。 「い、イリア=ランテス先生ですけど……?」 「けっ。あの野郎、医者に化けてんのかよ。笑える」 「……?」 「気にすんな。昔からの友人だよ」 「て、てことは、先生も吸血鬼……?」 「あ? さあな」  ククク、とヴィアンテは意地の悪い笑いをする。 「そんなことより、寝なくて良いのか?」 「言われなくても、寝るつもりです」 「……ロザリア。当たり前だが、表向きは俺がお前の執事――従者だ。だが、俺はお前に従うつもりは一切ない」 「なら、どうして……?」 「俺のことを話さないか、監視のためにいる。解ったか? 少しでも、俺のことを話してみろ。お前のその不味そうな血を吸い尽くしてやる」 「わ、わかりました……」 「……敬語はよせ。あと、俺に対してビビるな。二人きり以外はな」  ヴィアンテは、背伸びをしてから、ボクの身体を抱き上げる。 「軽いな、お前。女よりも軽いじゃねえか」 「な、何する……!?」 「いずれ、俺が食うんだ。もっと肉を付けろ。肉がなきゃ、大切な血もねえだろうが」 「そんなに食べられないんですっ」 「食べねえから食べられねえんだろ?」 「ヴィアンテには、関係ない!」  ボクは、ヴィアンテに平手打ちをした。  パシン、という音だけが部屋に響き渡る。  ヴィアンテは、ボクを見下ろす。 「この俺を殴るたぁ、良い度胸じゃねえか。ロザリア」 「っ」 「本当なら殺しているが、今は殺さないでおいてやる。だが、覚えておくが良い。お前は俺を殴ったことを、とても後悔する。それと、俺は関係ないということは、全くないということを」 「え……?」 「イリアが来るまで寝てろ」  ヴィアンテは、そう言って、ボクをベッドに寝かせる。 「おやすみ、病弱児(バンビーノマラート)」 ✟ 「坊っちゃん。おはようございます。イリア先生がお見えです」  ヴィアンテの言葉で、ボクは目を覚ます。  ぼやけた視界には、ヴィアンテとイリア先生が見える。 「あ、えっと……。今、起きます」  よいしょ、と身体を起こそうとする。  だけど、上手いこと起き上がれない。 ――どうして……? 「起き上がれない……」  ボクが呟くと、ヴィアンテがやれやれと、ボクを抱き上げ、ベッドに座らせる。 「本当にお身体の弱い方ですね」 「す、すまない……」 「いえ。お世話をする甲斐があります」  ニコッと笑う、ヴィアンテの目は、やはり笑っていなかった。  ボクたちのことを少し離れたところで見ていた、イリア先生は、ヴィアンテに「席を外してくれないか?」と言う。 「患者と一対一で話すのが、わたし流でね」 「ほぅ? 立派に医者を振る舞って、偉い偉い」 「……貴様、必ず殺す」  今まで見たことがない、イリア先生を見て。  ボクは、少しだけ得をした気分になった。 ✟ 「少しいつもより熱があるね。何かあった?」  イリア先生は優しい声で、ボクに言う。 「もしかして、あの執事?」 「…………」 「あいつのことは、それなりに知っているよ。昔からの友人だからね」 「ヴィアンテも言ってました。昔からの友人だ、と」 「そう言ってくれたのか、彼は。アハハ、嬉しいものだなぁ」 「え?」 「彼は基本的に一人だからね。一人が好きなんだ。わたしのように、彼に絡む人はたくさんいる。が、それを彼はいつも鬱陶しそうにしていたから」  やれやれ、とイリア先生は笑う。 「彼はやはりツンデレだなぁ」 「そうなんですか?」 「そうだよ」  イリア先生は、道具を仕舞いながら話す。 「デレはほぼないけどね。でも、可愛い奴さ」 「…………」 「熱は問題ないよ。初めてのことがあると、大抵の人は熱が出るもんさ。頑張ろうと気合を入れてね」 「そう、ですか」 「また何かあったら、と言っても来週だけどね」  じゃあ、とイリア先生は立ち上がり、扉の方へ行く。  ボクが礼を言うと、先生は立ち止まって、ボクを見ずに言う。 「ヴィアンテのことも、よろしくね」 「え……?」 「友人として、だよ。深い意味はない」  じゃあ、とイリア先生は帰って行った。

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