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お隣さんは大学生
1Kの狭い部屋。小さくしたテレビの音しか聞こえない事に、俺はとっくに気づいている。テーブルに並べた自慢の手作り料理。所謂“独身貴族”な俺が、回数を重ねる毎に上達した得意料理達だ。それをただ見つめるだけで、箸を持とうとしないそんな客人を見つめ、俺は何だか拍子抜けした。
「食べないの?」
「……いえ、頂きます」
そうは言うけれど、このやり取りは3度目。コトン、と最後に出来た豆腐入りの味噌汁を彼の前に置いて、俺は向かいに座る。
目の前にいるのは、今日会ったばかりの、それに俺より一回り以上歳の離れた学生だ。
——事の始まりは、約1時間前。
仕事帰りの俺は、大きな段ボールを抱えた彼とマンションのエントランスで会った。如何にも挙動不審なその態度に戸惑いながらも、エレベーターのボタンを押した時。
「……あの、」
声を掛けられた。
「どうしたの?」
「……すみません、紙が、落ちちゃって」
「ああ、これかな」
そう言って、男の子の足元から風で飛んできたチラシを拾い上げ、渡そうとした。
「あ、ありが……ぇ、ぅあっ!」
「え、」
抱えていた段ボールは、重かったんだろう。すぐ受け取ろうと屈んだ拍子に、態勢を崩した彼は、その場で段ボールを手放したのだ。
……ゴチンッ!
段ボールが、俺の額に当たった音。そして強烈な痛みが疾る。
「〜〜っっ!!」
「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか!?あああああ、すいません……!!」
焦りながら様子を気にする彼を宥めつつ、俺はぶつかった段ボールを抱えた。見た目からは想像出来ない程重量感があり、一人で運ぶのは到底無理な重さだ。
「これ、何が入ってるの?」
「え、あの……炊飯器、とか」
「炊飯器……ね」
生活感のない見た目だからそう思ったのだろうか。あまりご飯を炊いて食べている姿が想像出来なかった。
「これ運ぶよ。何号室?」
「……503です」
「お、お隣さん。んじゃ行こうか」
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