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 引っ越したての部屋は、段ボールで溢れていた。笹木尚仁(ささきなおと)くんといって、まさに今日大阪から出てきて荷物を運び終えたらしい。抱えた段ボールをキッチンに置くと、少し懐かしい空間にふぅ、と溜息が出た。 「この量を片付けていくの?」 「はい。今日、明日明後日で出来れば良いかなって」 「へえ。大変だね。ここに住むって事は、S大の学生さんかな」 「え、なんで分かるんですか」  笹木くんは驚いた顔で俺を見る。ほらやっぱりなんて、心の中でほくそ笑んだ。 「俺もS大通ってたから。先輩、かな」  ドヤ、と言いたげに彼の方を見て親指を立ててみる。少し伸びすぎた前髪から此方を見つめる笹木くんの目は、何だかキラキラしているように見えた。  それを可愛い、なんて思ってしまったのだ。そして、引っ越したての学生の忙しさや、大変さも知っている。だから…… 「……今日の晩御飯、うちで食べる?」 「え」  声を掛けてしまった。  ——……  そして、今に至る。  テーブルに並べられた2人分の食事。けれど笹木くんは箸を付けようとしない。 「いただきます」  俺は気にはしつつも、作りながら治めていた腹の虫が我慢出来ずに鳴き始めていた為、そそくさと箸を進めた。そしてそんな俺を見て、笹木くんはようやく箸を持つ。 「……いただきます。」  肉じゃがを一口分取って口に運んだ。今日のそれはいつもより出来が良い筈。人参とじゃが芋が丁度良い柔らかさになっている、紛れも無い自信作。 「……!」 「どう?」 「……お、美味しいです……こ、こんなん食べた事ない……」  余りの感激からか、関西弁になっていた。キラキラとした表情に、俺の口角は自然と上がる。 「沢山食べて良いよ。いっぱい作ったから」 「ありがとうございます……!」  日頃、残業で夜遅くまで仕事なのが殆どだった。けれど今日たまたま早上がりが出来て、たまたま見られた笑顔。それに、こんなにも癒されるなんて思わなかった。

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