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お隣さんからの、
「富田さん、今日残業いける?」
「大丈夫ですよ」
「悪いね毎度。これだけ片付けて貰えれば助かる」
「分かりました。終わり次第デスクに置いておきます」
あれから数週間。俺は相変わらず溜まってゆく仕事に追われていた。けれど残業時間は先月より少なく、遅くても19時には退勤のカードを切れる。そんな生活に有り難みを感じつつ、少し寂しい気持ちも何処かにあった。
あれから、何度か笹木くんは家に来て晩御飯を食べていく。毎回「美味しかったです」と笑ってくれるから、何だかそれだけで疲れなんて吹き飛んだ気がした。
……今日も、来ないかな。
帰り道、いつも立ち寄るスーパーで買い物をする。今日は1人分で良いか、そう考えるだけで何故か寂しい。
いやいや、そんな毎日のようには来ないか。
そう心の中で言うと、今日のメニューはこれにしよう。あれにしようと頭で考えつつ、買った食材を袋に入れて自宅へ向かう。
5階に着き視線を上げれば、見覚えのある後ろ姿があった。思わず目を見開き、声を掛ける。
「笹木くん!」
「……あ、富田さん」
俺よりも身長は低いけれど、整った顔とモノトーンで纏められた清楚な服装。そして相変わらず伸び過ぎている前髪。数日前にも見たけれど、何だか久しぶりな感じがする。
嬉しさのあまり、少し声が裏返った。
「ご飯、どうする?ちょっと時間遅いけど」
「い、頂いて、いきます」
「分かった。少し時間かかるから、荷物だけ置いて家おいで」
「はいっ」
今回は、少し反応が違った。荷物を置いて家に来た笹木くんは、上がるなり何か手伝える事はないかと聞いてきたのだ。
「じゃあ、皮剥きお願いしようかな」
「はい、やります!」
今日は鰤の照り焼きと山芋の煮付。そして豚汁だ。人参や山芋の皮剥きをお願いしたのは良いけれど、料理をした事のない学生に包丁を持たせて良いのか、と一瞬不安になる。恐る恐る隣を見れば、震える手で包丁を握る笹木くんがいた。
「ピーラー使いな!そんでゆっくりで良いから!」
「は、はいっ……!!」
自身の目線より少し下で、頑張る年下の男の子に、俺の頬はまた緩んでいた。
今日のも完璧な出来栄えだ。鰤の照り焼きに頬が落ちそうだと、山芋の煮付は優しい味で美味しいと、今回も笹木くんの口に合っていたようだ。全て綺麗に食べた後、彼は皿洗いをかって出てくれた。これ又、生活感のない彼だから、あたふたする様子がとても可愛らしい。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫です!いつも美味しいご飯頂いてるので、これぐらいはやらんと!」
……なんか、可愛いな。この子。
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