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なんか正しいコトをしたらヤれませんでした*案田編
トモダチ、というのが出来た。
小さい頃から引っ込み思案気味だった俺はあまり周りと馴染めず、かといってこっちから勇気を振り絞って話しかけてみれば緊張のあまり目付きが悪くなり、怖がられて遠ざかる。
友達というのが、わからなかった。
気晴らしに染めた髪の毛もよりいっそ恐怖を招くものになったみたいで、めんどくさくなった俺はなにもかも諦めてグレる道しかないと勝手に喧嘩しては虚しくなる。
そんな人生を過ごしていた。
母親にはバレてても生活を支えないといけないからって学校からの電話は無視。
だからよく俺の携帯に学校から連絡がくるが、最近は学校も諦めたみたいで来なくなった。
この長方形液晶は、なんなんだろ。
ジッ、と見つめていた液晶――スマホ――が、ある日を境に変わる。
知らないうちにどうやら喧嘩のし過ぎで相手に恨みを買わせてしまったらしい。
久々に学校から連絡が来ては同時に退学処分を下すから学校に来いという厳しいもの。
いや、厳しいもなにも今までは俺が悪いんだろうし、相手にしなかった母親にも学校からしたら頭抱えで考えていたのかもしれない。
むしろ俺の運は良い方だと思う。あんなにも暴れてたのにここまで学校に在籍してたんだから。
なにも思い出などないこの学校と、お別れらしい。
微かな希望がなかなか取れずに、重い足を歩かせながら家に向かっていた道を戻り、学校へ向かった。
もちろん教師は俺の目を見ずに、気まずそうに事の経緯を話していたが、全く心当たりのないものばかりの騒動で、これだけは泣きたくなった。
――俺が、なにしたっていうんだよ。
性格か。餓鬼の頃に直さなかったこの性格がダメだったのか。
スタート地点にも立たせてくれないんだな。
変に言い返してもきっとこの人達は信じてくれないだろう、と。
雰囲気で察した俺は教師に言われた通り、教室から自分の机と椅子を持って空き教室に置き、後日また学校へ来ることになる。
廊下を歩き、思い出もくそもないところで溢れる記憶は一切ない。
ただただ無のまま歩き、ついた教室のドアを開ける。
そこに、いたのが、小前という男だった。
「……」
結局、小前のおかげ……と、いえばいいのか。
退学になる事なく今もこの学校に登校している。
空き教室へ置かずにすんだ自分の机に体を突っ伏しながら、長方形の液晶――スマホの画面をタッチして、メール文を何度も繰り返して読んでいた俺。
【先生に呼ばれたから、帰りは待っててね。】
ふざけて記号を組み合わせた面白い顔文字とともに添えられた文章。
同じクラスだから口で言えばいいものの、最後の授業の時間に受信されたものだ。
初めてのトモダチになってくれた、小前。
顔はパッとしない人物で、だけど俺と同じく珍しい名前とイントネーションの違いで認識していた男だ。
俺的に、よく見るとかっこいいと思っているけど、やっぱりパッとしないのが小前らしい。
俺の事情を知って、すぐさまトモダチになってくれた小前は気持ち良いコトをしてくれた。
最初は痛くて友達とかいなくて良かったと感じていたものの、どんどんドンドン深みにはまって、最後には白い液を出してしまったほどだ。
まるでオナニーをしてるような――でも自慰行為は一人でするものだ。
あれは、小前と俺の、二人でした、元気が出るもの。
あったかいし、二人の間の距離を測るどころか密着していた。……すっげぇドキドキしたから、トモダチというのは素晴らしいと、わかってきた。
あれからいつもそばにいて、近付いて来る小前が嬉しくて、はやくも懐き始めてる俺。
たぶん、その人を知ったら知ったで俺も近寄る体質なのかもしれない。
煙草のように、依存していきそう。
煙草は不味過ぎてすぐに捨てたけど。
はやく小前のやつ来ないかな。
今日は漫画を買ったから二人で読もう、なんて誘ってくれたから。
「ん、おぉ……?案田?」
そこで、あいつに会った。
「相津、」
「なになにー?まだ残ってんの?」
小前のトモダチらしい、相津。ここの生徒会長をやっているらしい。
小前に出逢うまで生徒会長の存在すら知らなかった。
仕事でも終えたのか疲れ切った顔で俺の前席に座ってきた相津。
小前以外、近距離になったことがないから焦った。
倒していた上体も、起き上らせる。
「先生から呼び出しくらったとか?」
あと、小前と絡んでから、相津からにもよく話しかけられたりする。
「いや……おまえを待ってる……」
「おれ……?あっ、いや、小前な。友達になったんだっけ」
「……ん、トモダチになった」
ともだち、なんて言葉が歯痒くていまだにサラッと言えない。
相津は俺の机に腕を置き、片方の手を頬につきながら『ちょっとおかしいだろ、小前って』と笑った。
他人のおかしいなんてものがあまりよくわかっていない俺からしたら、小前を基準にしてるせいでなにがなんだか――。
「小前といたら楽しいぞ」
「はは、だろうな。……はぁ、」
「……」
とたんに溜め息を吐く相津の表情は浮かない。
小前みたいに、眉を垂らしてはその中心にシワを作っている。……なにか考え事でもしてるのか。
「どうした、」
俺なんかに話したところで解決の糸口とか巡り合わないけど。
「んぁ?まーなぁ……んー」
もったいぶる。
それに耐えきれずにいる俺は短気だと自覚している。
だけど、相津は小前のトモダチだから、手は出さない。
「案田は俺とも友達だから、悩み聞いてくれる?」
「え……トモダチだったっけ?」
不思議な言葉に疑問を持てば相津の顔を支えている手からずるり、と滑らせて落としていった。
どうした?
「逆に、え?なに?案田は俺をなんだと思ってたの?」
「会長?」
「そ、そうだな。あぁ、当たりだ……」
そう呟いて今度は手で顔を覆い、暗いオーラを出してきたように見える。
なんだろ、この仕草。
テレビで見た事あるような仕草だ。
なんだっけ。あれは確かドラマだった。人気な連ドラである企業会社の人々が動きながら奇妙過ぎる事件を解決していく、そんなドラマ。
テレビなんてしょっちゅう見るわけじゃない俺からしたらどこが面白いのかわからないまま流すように目にしていたが、今の相津の格好と、ミスって怒られたあのドラマに出ていた男が……同じポーズを、取ってる気がする。
「……ふぅ、」
「……」
溜め息まで、一緒だ。
それでなんだっけ。同僚が自販機で買った缶コーヒーを手にそいつへ渡しながら『大丈夫か?元気出せよ』って――。
「あ、」
「……ん?どうした?」
「お前、元気ないんだろ」
聞くもなにも決めつけで相津の目を見る。
すぐに驚くような表情を浮かばすこいつに、表情豊かな奴だな、と片隅で思いながらもう一度。
「溜め息吐いてるし、疲れ切ってる。――なんかミスったか?」
ドラマみたいな日常なんてあるわけがないが元気のない理由を知らない俺はドラマを見た、その真似で聞き出す。
「案田くん……」
両目を勢いにまかせて擦る相津。
元気がない、相津。
俺といつの間にかトモダチになっていたらしい、相津。
小前から、教わっといて、よかった。
――トモダチが元気なかったら、慰める。
「案田、聞いてくれよ、愚痴になるけどさ――」
思い出した俺は、相津と仲の良い小前の顔も潰さないように、トモダチだから、唇を寄せてそのまま付けた。
「あ、え……」
「……元気ないんだろ?」
俺の唇とこいつの唇。
小前と違ってちょっと厚さあるな、とか。喋ってたせいか熱が小前よりあったかも、とか。あと疲れのせいか小前よりカサつきあったな、とか。
全部が全部、小前と比べちゃうのはしかたがないだろう。
だって俺のトモダチはあいつしかいないわけで……いや、相津もトモダチらしいから、二人か。
どっちにしても元気付ける最初の段階を相津とやったのは初めてだ。
小前と比べるのはやっぱりしかたがない。
しかし、
「お、まっ……え!?なんでキス!?」
「……だからお前、元気ないんだろ?元気にさせるのがトモダチなんじゃねぇの?」
相津は驚いている。
椅子から飛ぶように立ち上がり、くっつけた唇を手の甲でこすりながら、顔もいくらか赤く見える気がする。
夕日のせいか?
……こいつにも友達なんて何十人といるだろうに、そんな大袈裟な反応するか?
きっと何度もヤってるであろうコトなのに……。
「あっ、案田の友達は!セフレのことだろ!」
「はあ?セフレなんていねぇよ」
「だって今!友達って!……ん、こういうことをするのは、そういった友達だろ……!」
わけがわからん。
わけがわからないが同時にボスッ、とどこかでなにかが落ちた音が聞こえた。
聞こえた方に顔を向ければ小前がやっと戻って来ていた。が、これまたおかしい。
相津よりは距離が遠くてもわかる、青ざめた顔。……なんだ?
「ちょ……え?お前等、なにしてんの?」
「お、まえ……」
「……」
声からしてわかる小前の動揺。相津が求める小前への助け。……なにもわからない、俺。
なんだ。
トモダチとして恥をかかないように、少しは小前のために、って思って、いつの間にかトモダチになっていた相津とやったのに。
小前とのコトを思い出しながらのスタートだったのに。
なんか、俺がおかしいことしたみたいじゃないか……。
「案田?ちょっと案田くん……!お前なにしたの!」
「いや、その、」
――だって。
それから小前は教室に入って来ては俺の肩をわし掴みし、腰を曲げてまで座ってる俺の目線と合わせてきた。
話しやすい。
けど、なにもわからないことには変わりない。
「だって……俺と相津は、なんかトモダチ、らしいから……」
「らしいって……」
ボソッと呟く相津。
耳に届いてから気付く、我ながらひどいと思う言葉。
理解が出来ないこの場に落ち込みながらも慌ててる相津と、慌てていて焦っていて、少し怖いと思う小前を何度も往復して目を動かしながら二人を見続ける俺。
我慢が出来なくなっている、気がする。
ここで初めて感じとった、気まずさに居心地が悪過ぎてどこかが痛い。……腹とか。
「……なんか俺、悪いことしたか……?」
「……っ、んんん!」
とたんに頭を抱える小前。
ダサいことにその動きにビクついてしまった俺も俺らしくないのかもしれないけど。
「おい……」
小前が、頭を抱えながら発した言葉。
いつもより少し低い声だ。
なんとなく、俺への言葉じゃないと判断して黙っていたら、戸惑い続けてる相津が『……なに、』と返事をしたから、やっぱ黙ってて正解だと心の中で思った。
「今日は帰って。今日のことは忘れて。相手が相手だと思って、さ」
「……ん」
さっぱり俺にはわからないが、相津はわかったみたいで小前の言葉に頷きながら鞄を持って教室から出て行った、相津。
取り残された感がハンパない。
喧嘩を売られた時とはまた違うモヤモヤな感情。
嫌なものだ。
「小前……」
「んー……まあ、俺が悪いのかもしれないけどさ、」
「……ぁ」
頭を抱えていた小前の手。
次に伸びてきたのは俺の体だった。
背中まで回ってきた腕はあたたかく、俺が好むものだ。
だからつい俺も小前の背中に腕を回す。
「今だけ聞いててな。あんたのトモダチは、俺だけだって。相津にしても誰かしらにしても〝友達だよ〟なんて言われても、知らないふりだ。わかった?」
「……俺も友達が欲しいんだけど」
ほんの少しの素直。
恥があるかと聞かれれば五分五分状態だ。
だって欲しいのは本当だし、けど小前がいるから一人ではないし。
本音も本音だけど、今の小前の言葉がまた胸に刺さった、というか。……今までを考えれば、幸せな方だよな。
「わかるわかる。友達を増やしたい気持ちは本当にわかる。でもトモダチはそう簡単に作れないんだからさ?今は俺がいるじゃん?」
「……」
確かに。
トモダチは、なんか最初は痛いし、吐きそうにもなった。
何度かヤって、やっと慣れてくる気持ち良さに元気が出る。
何度も何度も打ち解けて、そこでやっとトモダチになる、らしい。
というか、小前とはそうだったから、間違いない。――んん、しばらくは、小前だけ……と。
「ん、わかった」
「よかった」
頷く俺に、小前は肩に顔を埋めてきて背中を撫でてくる。
それが異常に気持ち良く感じてきて、俺も小前の肩に頭を置かせてもらった。
これだけでも元気になれるから、やっぱりトモダチはすごい。
「小前、」
呼んだ先に、パッとしない顔へ口付けして元気になってもらおうと俺なりの頑張りを持って行動をしてみた。
(「そういや、この行動がセフレとか言われたな」「相津はたまにおかしいからな」「お前等、同じこと言ってるな。さすが友達だ」「……心配だ」)
*END*
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