2 / 3

なんか愛着わいたんでヤっちゃいました

   そもそも、俺は恋人だった今までの奴等になにかを感じることが出来なかった。  ヒドイように聞こえるかもしれないが、事実だからしかたない。かわいいとは思う、綺麗だとは思う、元気だとは思う。  外見ばかりなもので中身から見えるなにかを、俺は感じ取ることが出来なかった。  そんな俺にもとうとう春というものがやって来たのかもしれない。  案田という、痛んでいそうで近くで見れば綺麗な金髪頭に睨まれたら石化するんじゃないかと思われる勘違い切れ目。それでいてスッとした高い鼻に形の良い唇。  顔がすごく良い彼――男だ。  俺は男相手にとうとう春が来たかもしれないと感じてる。  別にここで葛藤したりいろいろ悩むなど、そんなわけのわからない時間はかけない。  関係というカンケイを持ったのはつい先日。放課後、一人でなくしたスマホを教室で探していた時、急に開いた教室のドア。  そこに立っていたのが案田だったんだが、この時まで素行が悪く、噂で聞いた限り多数の問題を起こしてきた男と認識していた俺はすぐにでも逃げ出したかった。  案田とは違って顔は普通だし成績も普通で、人生の蓋を開けても普通に普通過ぎて、三歳で俺人生ロードショーを終わりにしたいぐらいの普通さ。  その先になにかがあるかもしれない俺人生ロードショーも周りが予想するような人生だから、結局二度見たような映画に打ち切って正解だと声を上げるだろう。  そう、俺の中で一番――ビッグなハイテンション人生だったのは、名字が【小前】ということぐらい。それを聞いてはみんな驚いては一瞬の盛り上がりを見せて、その話題が消える。  つまりはさ、俺にスマホがなくても不便にならないってことだ。  教室以外も探していたせいか疲れが出てきたし、怖い案田も参上してビクビクしちゃったし、もういいや――なんて諦めかけていた。  一度も絡んだ事がない案田。  噂ってすごいよな。あることないこと風に流れて耳に届くんだ。  ――退学されるんだって。  一人あたふたと考えながら案田を見ていたら、勝手に机と椅子を持っては教室から出て行こうとした案田。そこでなぜか俺のスマホが出てきて見付かったんだけど、そっちよりも案田の行動が気になってつい聞いてしまったんだ。  理由はやっぱり、噂が怖い。  その後も泣いて縋ってきた案田はどうやらのが初めてだったみたいで、退学したくない気持ちとその嬉しさで泣いたと言う。  かわいいっしょ。  それを理由に、案田とセックスしちゃったんだけど。なにも知らない人肌に俺が一から教えてあげたんだ。  友達がいない案田。親からも教師からもほとんど見離されて誰も教えてくれなかったみたいだから。  だから俺は、この行為を、と。  そうだよ。俺と案田はあの時からトモダチとして成り立った関係なんだよ。  泣きじゃくる案田は友達というキーワードに弱くなっていたみたいで最後には『気持ち良い』と言いながらイッてくれたんだ。 かわいくて可愛くてカワイイ案田。  今は目の前で喧嘩真っ最中なんだけど。 「お前小さいくせに調子にのんなよ!」 「小さいは関係ないだろ」  正論を言う案田はそこで鈍い音を立たせながら相手を殴る。呆気なくもそのパンチには力があったみたいですぐに倒れる相手。  見る限り、地に倒れてるのは三人で、生き残りという名の立って殴り構えてる子達が二人。……けど、どうみてもクタクタ状態だ。  トモダチの案田はビンビンで元気そうなんだけど。……やっぱこういったものは、強いんだなぁ。 「あーんーたー!」 「……っ」  俺の叫びとともに襲ってきた二人は卑怯にも同時に案田へ向かって走り出した。  それでも案田からしたら猫が二匹同時に襲ってきたもの扱いで、一人には回し蹴り。続けて俺の方に振り向きながら最後の奴には顔面殴りでお見舞い。  さすが。  この短時間の間に何度拍手を送った事だろう。 「お、小前っ、なんで今ここに……?」 「んー?」  道に落ちていた鞄を拾い上げながら俺に近付いて来た。  人気のない路地裏、とはいっても少し広すぎる路地裏だ。俺が想像するような狭くて暗く、ゴミ箱がいくつもあるような場ではない。  もしかしたらここは路地裏じゃないかもしれない。ただ人が少ない通り。それだけかもな。 「この時間は、お前まだ学校にいるはずだろ?」 「んー、」  慌てて制服のポケットから取り出したスマホで時間を確認する案田。  そうそう。今の時間って四時間目始まったか中盤に差し掛かったところじゃなかったかな。  まぁ、なに、俺だってサボりぐらいするよ。  あんなに強くても少しは殴られたのか口端と額に小さな傷を作ってあったところに、軽く口付けをしてスマホを持っていない方の手を繋ぐ。  これだけでそわそわしている案田が可愛い。  俺に春をくれた、それが、アンタだ。 「なっ、んだよ……」 「んー。案田ぁ、」  五人も人が倒れてて、それを倒したのがこの、可愛らしく顔を真っ赤にさせた凶暴くんなわけだ。  信じられないけど目の前で見ちゃったからな。  こんな案田を心から可愛いと思えるのは、 「今から俺の家に行こう」 「え?」  なんでだろ。  経験したことないからわからないや。    *   *   *  案田の有無も聞き入れず、繋いでいた手を引いては勝手に進む俺の足。もちろん行き先は俺の家だ。  一人暮らしじゃない、両親のいる家――共働きだけど。弟もいるが、あいつはサボるような奴じゃないから学校にいるだろうよ。  今行けば、俺と案田だけの二人だけになれる。  え?  どうして友達なのに二人きりになるかって?――トモダチだからだろ! 「お、小前、急にどうした?」 「そんな不安そうな顔すんなよー。トモダチの俺が傷付いちゃうー」 「え……あ、わり……」  冗談も通じない友達って面倒だけど案田は別枠過ぎる。ここまでの特別な感情も持った事ないや。  がちゃ、と最後まで玄関のドアを閉めては鍵もちゃんとかけておく。  シーンと静かになった周りは明かりなどついておらず、昼間なのにちょっと暗い。今日の天気は曇りだからなぁ。  家に入れていた案田を後ろから抱き締めようと、するりっ、と両腕を横腹から通した。とたんに俺が近付いた行動に案田は体をビクつかせて、回ってきた俺の腕を凝視。  凝視なんだ。俺を見るんじゃなくて、俺の腕を凝視するんだ。  顔、合わせらんないの? 「案田……」 「ん、なんだよっ」  息を吹きかけるように左耳へ唇を寄せて、そのままそこへキスをした。  慣れてない案田は顔を背け、――ないから、良い。  抵抗はしないんだ。  なにも知らない案田は、人との距離感を知らない案田は照れて顔を真っ赤に染まらせるけど『やめろ』だったり『抱きつくな』とは絶対に言わない。  初めて抱いた教室以来、なにかと理由をつけては数回ヤっていたものの、やっぱりなにも言わないから俺も調子に乗っちゃうんだけどな? 「案田、なんか元気ないぞ?」  次に眩しいほど綺麗な髪の毛を撫でながら続ける。 「というか……俺と会った時、から?俺と会うの嫌だった?」  そう聞くと、案田は俺の腕から視線をこっちに持ってきて、目が合った。  あの喧嘩を見て、終わる直前に俺が声をかけて、案田が喧嘩を終わらせた、その直後だ。なんだか元気がないように見えたのは。  俺の勘違いでも、勘違いじゃなくて本当に元気がないにしても、関係なく可愛がれるからいいんだけど……さすがに俺に会いたくなかったから元気なくした、なんて理由だったら俺すごい傷付いちゃうよ。 「違う。そうじゃない、」  ほう、それはよかった。 「……元気は、ある」 「そうかなー?」  なんて心配しつつ、靴を脱がせる仕草で伝えればその通りに動いてくれて、くっついたまま二階にある自室へ招いた。  二人の鞄は適当な場所に放って、ベッドに座らせる。流れるように唇を重ねると、震えながらも舌を出してきたから淫乱なのかもしれない。  案田の淫乱疑惑。  まあ、俺だけの淫乱だったら別に気にしないけどな。  ボタンを次々外して見えてくる肌は吸い付きたくなるほどの張り。焼ける体質でもないのか、白くてピンクな乳首とマッチしている。  一通り、舌を絡めていれば案田から求めてくるようにシャツを握ってきた。  心臓が震えそう。死ぬかもしれない。  咄嗟に思ったバカなことに一度、キスをやめて小さな豆粒なピンク色を口に含む。 「ぁ、んっ……!」  おさえて出た声ほど色気が増すものはない。  舐めただけなのに、この舌で感じてくれたのはとても嬉しいことだよね。 「あんた、結構ここで感じるようになったな?」 「はぅ……!いっ、いきなり過ぎるぞ……」  とろとろな目になってきたそこは涙がたまっている。デキあがりのはやい案田。  あー、かわいい。 「いきなり?じゃあ俺が一番に気付いたってこと?それは、嬉しいなァ」 「あっ……!はぁ……なに、んんッ」  ぐっ、と乳首をつまむとイヤらしい声がさらに上がる。  だって俺から見て案田が元気なさそうに見えたんだ。ならばトモダチとして慰めてやりたいじゃないか。俺は、周りからどうこう言われようとも案田に教えた通りのままヤっていくからな?  友達同士はこんなことしない、だなんて今さら過ぎる!  いいか?  俺と案田は、トモダチなんだ。なにも知らない案田に植えた知識なんて騙してる事と同じかもしれない。  でもこんなのスマホにしろなんにしろパソコンにしろ、一人だった奴でさえ理解するようなことだ。なんにも調べなかった案田も案田だ。  さすがにセックスぐらいは、知ってると思ったんだけど――案田の中では、俺が正しいって事で。 「んぁ、はぁ、はあ……!お、まえ……ばか、ちょっと、」 「んーっ?あー、それそれ。はあ、その顔かっわいー」 「なんか激しっ、んぅ……っ!」  口開く案田に最初から舌を入れてそのナカをかき混ぜる勢いで暴れる。舌も暴れてれば下のモノも暴れている俺ってマジで男子高生の青春謳歌してるなぁ。  つーか気持ち良過ぎてぶっ飛びそう。俺がぶっ飛ぶのもおかしな話だけど、案田のナカってとてつもないんだよ。案田で童貞卒業してるから比べる人とかいないんだけど。 「あーッ……きっつ、」 「はあっは、んん!もうやぁ……!」 「きもちー?あんた、こんなヨガってるけど、」 「ん、ぅんッ、きもち、いー……ぁ、ひゃ――!」  バックから片腕を掴んでギリギリまで引っ張り、倒れそうになる案田を支えながら腰を打つ。振動で揺れる髪に、きゅっと足の指を丸める案田が可愛い。  俺ってば可愛いしか案田に思えなくなってる。  あー、今思い出せば喧嘩してる時の案田は最高にかっこよかったなぁ。やっぱ案田ってこういうのがなければイケメンの勝ち組不良なんだろうなー。  そこに、友達がいなかっただけで負け組みたいな扱い。俺だけのトモダチでよかったと思わないか?  俺とだってバカ出来るし、勉強だって出来るぞ。放課後とかファーストフードに行って喋ることも出来る。性も溜まったら、吐き出せるよ? 「くっ……あー、イキそっ、なあ案田は?」  ぐちょぐちょと鳴る音を聞きながら案田に尋ねてみると、こっちもこっちで限界らしく、頭を何度も上下に振っている。  その姿にニヤけつつも最後、イク前に案田のうなじへ噛み付くようにキスマークを付けて、うっかりナカへ吐き出してしまった俺と、なにも準備されてなかったベッドの上に吐き出した案田。  ――それと同時に『ただいまー』と低い声が、耳に届いた。 「まぁまぁ、傷があるじゃない。こっちにおいで、案田くん」 「え、あ、はい……」 「案田くんは嫌いな食べ物あるのか?」 「ご、ご飯で言うなら、ないです……」 「案田って、アンタ?」 「いや……」 「おいバカ弟、年上だぞ」  そう言ってペシッ、と呼び捨てにした弟へ頭を叩く。  あの『ただいまー』の正体。午前授業だったらしい弟の声だった。声変わりを終えた中学三年生の弟だ。俺より低い声で納得いかない、兄でも認めるイケボ。  顔も中の上で結構高めな、角度を変えればイケメンに見えるかもしれないレベルの弟だった。  俺に用事でもあったのか、靴を見て兄貴がいると判断したみたいで、セックス終了した直後、階段を上っては部屋のノックをしてきた。  さすがに乱れている制服やらなんやらを見せるわけにはいかないから全部ひっくるめてベトベトな掛け布団を案田に掛けて、あたかも寝てます雰囲気を出したあと、俺は弟に返事をしながら着替えてる途中アピールをしたのだ。  問題のニオイについてはもう頭になかった。  そして案田を見付けては喋りたいというもんだから、寝てるフリをしている案田を起こして、ベッドの中から動かず両親が帰ってくるまで楽しい時間を過ごしていた、というわけ。  その流れでどうしたことか……案田が我が家にて夕飯を食べる事になったのだ。 「なんかごめんなぁ?案田」 「いや、いい。大丈夫」  もちろん、ちゃんとベッド整理もしたし、ウェットティッシュで簡単に拭き取ってとりあえずのことはした。  バレてない。そう願うしかない! 「……お前の家は父親がご飯作るんだな」  案田を気に入った母さんと父さん。  母さんに怪我の手当てをしてもらってる案田は、顔こそ動かさずにおとなしくしていたが、目だけをキッチンにうつして口にした。 「てか、毎日代わってたりしてるよ。今日が父さんなだけで」 「あの人の料理、美味しいからきっと案田くんの口にもあうはずよ?はい、終わり!」 「……ありがとうございます」  救急箱を持ちながら立ち上がる母さんはリビングから出て行き、そのまま消えた。その姿を目で追う案田。  弟はもう案田に興味をなくしたのか、それとも俺に叩かれて拗ねたのかわからないがゲームをしている。  父さんも父さんで張り切って揚げ物と葛藤しているから、別に俺と案田がなにしようと、なにを話そうと、関係ない。 「馴れ馴れしいだろ、母さん」 「そうじゃない。……まあ、ちょっと、慣れない雰囲気だけど」 「慣れない雰囲気?そういや案田の家族は?」  そう聞くと、案田は普通に母親だけと答えた。  地雷だったか……と思う前に案田は気にせず話してくれた。  案田の記憶がない年齢の時に――つまりは赤ん坊の時――離婚しているらしい。  あー、そういや連絡先も父親とかなかったな。  母親は夜の仕事で案田は学校。すれ違いの生活だから家でわいわいした場にはなかなか慣れてないと。 「楽しいんだろうな、小前の家は」 「……」  触らない限り赤くならない案田。意外にも泣き虫な案田。  これしか知らない。  もっと表情を増やすにはどうしたらいいものか。もしくは、俺が作らせるか、 「案田ー!このゲーム知ってるか?知ってたらこのステージやってよー」 「……ん、テレビで見た程度だけど」 「うっそ……」  突然の弟の絡みに俺から離れた案田は渡されたゲーム機を手にして操作し始めた。  さっきまではあんなにもあんあん言ってたくせに、目に涙を溜めて紅潮とした頬にどこもかしこも震えていたくせに。  無のままが多い表情、俺はちょっと嫌かな。……けど、他の誰かに違う表情を見せられても、いやだな。  はあ……なんだこのもやもや。――それとムラムラ。  おかしいな、さっきまで満足しては出したのに。そこは思春期男子の年齢なのか?  でもいったいどこでそんなムラつくところがあったんだ。 「お、案田すげぇじゃん!クリアしてる!」 「……」 「うぇーい!さんきゅー!」  お礼も軽々しくゲームをクリアさせたら用済みみたいに取り戻した弟はソファーに移動してニコニコと楽しそうにやり始めた。わけがわかってない案田の顔、おもしろいよ。  おもしろいんだけど、どうしよう。 「あんた、」  ポン、と頭に手を置いては、撫でる。  立ってる俺に座ってる案田は俺を見上げて言葉を待っていた。  無条件に可愛い。  それしか思えずしょうがない。今日は何回、案田にたいして可愛いと言ったかな?  思い出せないや。 「案田、いつでも俺の家、来てもいいよ。連絡なしで来てもいいよ」 「は?」 「俺等トモダチだろ?――友達は、勝手に友達の家に入ってもいいんだから、」  その後に『知らなかった?』と付け足して、案田を立たせる。  かわいくて可愛くて愛しいと思えるこの感情は初めてだ。どの女の子にも感じなかった。中身まで想えるように出来た相手が、男。  とうとう俺の中に春がきた。素晴らしいだろ? 「……なんか、また元気ないように見えるよ、アンタ」 「んなわけっ――お、っと……!小前ってば、」  グイッ、と引っ張って案田をリビングから自室に向かう。  部屋に今から行って、もう一回かな。あ、ご飯はまたあとでにしよう。  出来たてが美味いことは知ってるけど。 「小前、おれ元気ないように、あぶねっ……見えんの?」 「んー?」  俺の押し付けで元気がないんじゃないかと聞いてるって?  おぉ、その通り!  全部が全部、案田が可愛いのが悪いんだよ。  ――この際、今日は泊まっちゃえばいいのに。 (「小前の身内と関われて嬉しかったんだが、暗い顔だったか?」「もうマジそういうとこー!」) *END*  

ともだちにシェアしよう!