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新しい出会い

どうしていいものか、困り果てていると男性の胸ポケットがブルブルと震えだした。最初はすぐに止んだけど、それが2度、3度続き、振動する時間も長くなっていった。男性を起こさないようにそぉっと恐る恐る手を伸ばし、胸ポケットからスマートフォンを取りだした。画面に目を落とすと、゛橘゛という人物からの着信履歴が何十件と残っていた。 電話を掛けられない代わりにショートメールを打った。 『こんばんわ、この携帯の持ち主の男性はうちの玄関の前で酔い潰れて寝ています』 送信して数秒と掛からず返信が届いた。 『すぐに迎えに行きます。そちらの住所を教えて頂けますか?』 言われた通り住所を打ちながら、一太と毛布を取りに一旦うちの中に入った。 「まま、いちたおるすばんしてる」 お腹が空いているはずなのに一太は駄々を捏ねることなくお利口さんにしてくれた。ごめんね、一太。 橘という名前の人から何回もメールが届いて。 男性の名前が卯月さんということと、何とか金融という名前の会社を共同で経営しているということを教えてもらった。 『ほったらかしにしておいて構いませんよ。少しはお灸をそえた方が彼の為ですから』 『でも・・・』 文章を考えているうちに、次のメールが届いた。 『心配無用です。馬鹿は風邪をひきませんから』 橘さんは男性にとても手厳しかった。 『甘やかせたら付け上がるだけですから』 【友人というより、保護者みたい】 送られてきた文章を見て、思わず吹き出しそうになった。そのくらいおかしくて仕方がなかった。 【いいなぁ、こんな風に心配してもらって。僕なんか、茨木さん以外誰にも心配されない。実の親にさえ見捨てられたし】 羨ましいなぁ、内心そう思いながら、男性の体に毛布をそっと掛けた。橘さんが到着するまでスマホを握り締め男性の側に寄り添った。

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