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豹変
はじめ、何か起きているのか全く分からなかった。普段あまり人見知りしない一太が、ギャアーギャアーと大声で泣き叫ぶ声は辺りにこだましていて。緊急事態なのは明らかだった。どうにかして一太を助けないと!
ありったけの力を籠め、颯人さんの胸元を掴み自分の方に強く引っ張った。
「・・・」
彼は目を合わせようとせず、唇を真一文字に固く結んだまま、険しい表情を崩すことはなかった。
「そいつはな、根っからの悪党だ。金の為なら
人殺しも厭わない。身内でさえ平気で騙す」
野太い低い声が車内に響く。
「ガキは預かってくぜ。恨むならそいつを恨むんだな」
吐き捨てるように言い放つとドアがバタンと閉まり、泣き叫ぶ一太の声がだんだんと遠ざかるのがはっきり分かった。
【一太をどこに連れていくの?】
【お願い返して!!】
【連れていかないで!!】
どんなに叫んでも声にはならない。
なおも体を押さえつけようとする颯人さんの体を懸命に押しのけ、車外に飛び出した。
一太は・・・?
辺りはすっかり暗闇に包まれていて、しんと静まり返っていた。一太の泣き声はひとつも聞こえない。
自分の命なんて、どうでもいい。
お願いだから、一太を返して!
半狂乱になりながら必死で辺りを探し回った。
この状況にも関わらず、颯人さんは表情ひとつ変えず。なぜ、一太が連れ去られたか、何一つ説明してくれなくて。
やれやれとただ溜め息を吐いて、助手席側のドアに寄り掛かかっていた。
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