22 / 3237

新しい生活のはじまり

「まま、おぃちぃ」 満面の笑みを浮かべ大好きなハンバーグをむしゃむしゃと頬張る一太。大好きな卯月さんが隣にいるからか、いつもより機嫌が良くて、テンションもかなり高めだ。 まぁ、無理もない。 ここに来る前に、ベビー用品を専門に扱うお店に立ち寄った。値段も見ずに一太の服を次々にカートに入れた彼。オムツも、そしてまさか本当に購入するとは思わなかったチャイルドシートまで。 「これでいっぱい出掛けられるな、一太」 「うん!」 「何処に行きたい?」 「えっとぉ・・・」 笑顔で卯月さんとお話しする一太。はたから見たら本当の親子に写るんだろうな、きっと。顔は怖いけど、本当はいい人なのかもしれない。 「遠慮しなくていいですよ。卯月の好きなようにさせてあげてください」 予想を上回る支払い金額を見て吃驚した。狼狽える僕を、橘さんが気に掛けてくれて声を掛けてくれた。 「支払いはこれで」 ポケットの内ポケットからさっと黒色のカードを取り出す卯月さん。 「未知、一太と少し待っててくれ。チャイルドシートをつけてくるから。足りないものがあればそのカードで支払っておいていいから」 それだけいうとカートを押して、橘さんと駐車場へ行ってしまった。昨日会ったばかりの僕にカードを預けるなんて。吃驚することばかり続いて、しばし唖然としてしまった。 彼を待つ間、一太とオモチャで遊んでいたら、戻ってきた卯月さんがそれを見て、また色々とオモチャをカートに入れだして・・・ これ以上買ってもらう訳にはいかないからと、必死で断ったけど。結局押しきられ、たくさんのオモチャを買ってもらったのだった。 それだけではない。 オムツ交換から、着替えまで卯月さんにしてもらい、お利口さんだったな、偉いぞ!とたくさん褒めて貰い、何が食べたいと聞かれ、ハンバーグ!と即答した息子。外食すること自体あまりないから。こうしてレストランに連れてきて貰い、一太にとって文字どおり夢のような一時。 きっとさっきの事を少しでも忘れさせようと卯月さんなりの配慮だったのかもしれない。 今だ、僕らを兄弟だと思い込んでいる彼。いつまでも嘘をつくわけにはいかない。ちゃんと言わないと。

ともだちにシェアしよう!