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彼のお父さん
何で僕が案内しないといけないの、ぶつぶつと一人言を言いながらも、心さんが広間へと案内してくれた。
「あっ、パパ!おっきいとんぼしゃんだ‼おめめもおっきい‼」
縁側を歩いていたら一匹の鬼蜻蜒が迷いこんできた。
「おっ、珍しいな。鬼蜻蜒だよ一太」
「おにやんま?」
「そう。昔はたくさんいたんだが、最近めっきり姿を見なくなった」
「へぇ~」
初めて見る鬼蜻蜒に興味津々。目をキラキラと輝かせ、一太があとを追い掛け始めた。
「走ったら危ないだろ」彼が慌てて一太を追い掛けた。
「那奈さんの身売り話し、なくなったって」
二人きりになり心さんがそんなことを言い出した。
「嘘だと思ってるでしょう?」
クスッと笑われた。
「詳細は秦さんから聞いて。やっと会えた姉弟を引き離すのはかわいそうだと、茨木さんだっけ?カフェのオーナ、彼が昇龍会の組長と秦さんに直談判したんだって。すごい人だよね。何者なんだろう?」
心さん、茨木さんの素性をまだ知らされていないようだった。もし知ったらびっくりするだろうな、きっと。
「僕なんて、畏れ多くて声さえ掛けられないもの。着いたよ、どうぞ」
広間の襖戸を開けてくれた。立ったまま挨拶する訳にはいかないから、慌てて膝を落としその場に正座し、三つ指をついて頭を下げた。
「そんなに改まらなくてもいいよ。未知ちゃんに会いに来ただけだから。頭を上げて」
あっ、この声!
でもこんなところに彼がいるはずないもの。
いつもカフェに来てくれる常連さんの声、僕が聞き間違えるはずないし・・・
恐る恐る顔をあげた。どうか勘違いでありますように、内心そう願いながら・・・
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