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彼のお父さん

「一太は俺の息子だ。跡取りにはしない」 根岸さんに捕まっていた彼が戻って来た。 「おう、遥琉」 男性に声を掛けられて。 「お前はいつまでここにいるんだ」 しかめ面し不機嫌な表情になる彼。 「いつまでって、ここは俺の家だ」 苛立ちを露にする彼とは対照的に、男性は落ち着いていた。 【遥琉さん、知り合いなの?】 上着の裾を掴み軽く引っ張った。 「こいつは、秦裕貴。昇龍会の金庫番をしている組長代理の、秦尚道の長男だ。腐れ縁の悪友だよ。いつも人のモノを横取りしやがる。那奈の兄じゃなかったらとうに縁を切ってる」 「横取りっていう言い方はないだろう。お前が脇が甘いから、だから寝取られるんだろ?」 自信たっぷりに喋る秦さん。彼の眉間にどんどん皺が寄っていった。 彼のお父さんと、心さんにとって二人の口喧嘩は日常茶飯事なのかさほど驚いていなかった。彼が実家に行きたがらない理由をなんとなく理解出来たかも。 「へぇ~なかなか可愛い子だな。お前が今まで付き合ってきた女とはまるっきり違うタイプの子で正直驚いたよ。普通っていうか、平凡っていうか」 値踏みするかのように全身をジロジロとくまなく見られた。 「俺が誰と付き合おうが関係ないだろう。未知は自慢の妻だ」 憮然面しそうきっぱり言い切ると、彼に手首を掴まれた。゛帰ろう゛って唇が動いていた。 「おい待て。帰るなら、父に会ってからにしろよ」 彼のお父さんにバイバイした一太を彼が抱き上げて、その場から立ち去ろうとしたら、秦さんの声が飛んできた。 幹部の皆さんが勢揃いしている手前、無視するわけにもいかず、渋々ながらも頷く彼。 「悪いな未知。縦社会の付き合いってものがあって・・・体調は大丈夫か?挨拶だけしたらすぐ帰ろう」 一太にも、飽きたな、早くうちに帰ろうなって声を掛けてくれた。何気ない彼の優しさ、気遣いがとても嬉しかった。

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