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彼のお父さん
「未知ちゃんは目に入れても痛くないくらいかわいい甥っ子なんだ。那奈と血をわけた実の姉弟だ。心、気が付かなかったか?目元の辺りなんかよく似てるだろう」
いまいち状況を飲み込めないのか、キョトンとしていた。
「感動の再会っていうのか?手を取り合って喜び合うやつ、あれしたいんだけど、旦那さんに焼きもち妬かれても困るからな」
中澤さん髪をくしゃくしゃと手で掻いていた。
「別に構いませんよ、ハグ以外なら、一瞬なら」
一太の手を繋いで彼が広間に姿を現した。
「あなたが居なかったら、未知の居場所をすぐに突き止められなかったし、一太も連れ去られていた」
「じゃあ、遠慮なく」
中澤さんが膝を前に進めた。彼の両手が、僕の両手を包み込むとそのまま高く上げ、ブンブンと何度も大きく振った。
「いゃ~~あ、嬉しいな、会いたかったよ」って何度も口にして。しまいには嬉しさのあまり泣き出した。ほんと、中澤さんって面白い人だ。
はた目から見たら、ちょっと頼りなく見えるけど。実は、彼と同じ世界で生きているなんて。人は見かけによらないものだ。
「ちなみにな、茨木さん、ほら、カフェのオーナー。彼は私の実の父だ。心、ちゃんと挨拶して、謝ってこいよ。この前は迷惑を掛けたと。それが礼儀ってもんだ」
中澤さんが名残惜しそうに手を離した。
「茨木さんがいなかったら、身内のお家騒動は決着がつかなかった。龍一家も消滅していた。龍一家の次期当主としてのケジメ、ちゃんと見せてこい」
中澤さんにハッパを掛けられて、心さんの姿勢がピンと伸びた。
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