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番外編 それでも彼が好きだから

「第一印象は、いまいちパッとしない、どこにでもいる真面目なサラリーマン。そんな彼がなんで遥琉や、裕貴と一緒にいるのか、二人の舎弟がぺこぺこ頭を下げているのか全く分からなくて。遥琉に聞いたら、本人から直接聞いた方が分かるからってダーリンを紹介してもらったの。そのとき、はじめて彼が昇龍会の組長の隠し子で、戸籍上は遥琉の弟になっていることを知ったの」 遥香ちゃん、おじちゃん鬼になるから隠れてね。はぁ~~い‼ 笹原さんと鬼ごっこをはじめた遥香のはじけた笑顔に、強張っていた千里さんの表情が自然と綻んだ。 「何度か会ううち、優しくて、男気がある彼が好きになっていったの。当然ながら、全く相手にされなかったけれどね。それでも幸せだった。ダーリンの側にいれる。それだけでじゅうぶん幸せだった。アタシを長年苦しめたひとも、生まれてはじめて好きになったひとも、同性だった。ほんと皮肉なものよね」 ため息まじりに自嘲する千里さん。 一度目を閉じると、宙を仰ぎ見た。 これ以上聞いたら彼女を傷付けることになるかも知れない。 僕だって、彼がいてくれたからこそ、乗り越えられたんだもの。一人じゃ絶対無理だった。 《千里さん話しを聞かせてくれてありがとう》 急いでペンを走らせた。 「未知は優しいのね。でも、そんなに柔じゃないから、大丈夫よ。ありがとう、心配してくれて。ねぇ、ねぇ聞いて未知。ダーリンとの馴れ初めの話しをしても、心以外誰も耳を貸してくれないのよ。兄も、遥琉も、裕貴も、茨木さんも、秦さんも、ほんと男って薄情よね。酷くない⁉でも未知は薄情じゃないから、ちゃんと最後まで聞いてくれるよね?」 千里さんに両手をガシッと握られ同意を求められた。 ついさっきまで弱音を吐いていたとは思えないくらい立ち直りが早くて驚いた。

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