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番外編 過去に囚われたままの彼
「そうだね、パンケーキを一緒に食べようって約束していたもんね。ごめんね、お兄ちゃんすっかり忘れていた」
「ゆうおにいちゃんも、はいは?」
心さんの表情が緩み、つられるようにそれまで強張っていた裕貴さんの表情も緩んだ。
遥香は、あっという間に二人を仲直りさせ、場の雰囲気を和ませてしまった。
茨木さんが、遥香が大好きなパンケーキを人数分焼いてくれた。ちゃんとおてて合わせて、頂きますしてくださいって、いつも僕に言われていることをそのままそっくり口にしていたから、おかしくて仕方がなかった。
「裕貴、甘いもの苦手だろ?おい大丈夫か?」
心配する茨木さんをよそに黙々とパンケーキを口に運ぶ裕貴さん。その横顔をしばらく眺めていた茨木さんが、いい面構えになった、そうポツリと呟いた。
『指定暴力団昇龍会のトップが交代したニュースを先日お伝えしたばかりですが、直参の龍一家と縣一家のトップも交代する模様です。龍一家六代目組長に就任するのは、昇龍会の金庫番をつとめる秦氏の長男、裕貴氏。弱冠35才……ーー』
お昼のニュースが、裕貴さんの組長就任の第一報を大々的に報じていた。
「いちいち聞かなくてもいいだろう」
茨木さんがすぐにチャンネルを回した。
「他所から入った新参者の俺に、龍一家の皆さんは本当に良くしてくれます。普通なら、若輩者、ボンクラって揶揄されて馬鹿にされるのが当たり前なのに」
「それが大嫌いなんだよ、卯月は。心を俺に下さいって頭を下げたお前さんのその男気に惚れ込んで、婿として迎えたんだ。だから、胸を張って堂々としていたらいいんだよ」
「茨木さん、ありがとうございます」
軽く頭を下げた裕貴さんに、止してくれ、背中が痒くなるだろうが、そう言って苦笑いを浮かべた。
「へぇー、縣一家も組長が交代するんだ」
「長男の遼成さんが新しい組長になるみたい」
「そうなんだ。じゃあ一気に若返るね。しかも、揃いも揃っていい男ばっかりじゃない」
千里さんのその一言に、茨木さんがボソッと呟いた。揃いも揃って嫉妬深くて、焼きもち妬きの間違いだろって。
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