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番外編 焼きもち妬きの彼
その日の夜、信孝さんから彼に電話が掛かってきた。
《一太の転園先が決まった。
信孝の子供たちが通園している幼保園で受け入れてくれるそうだ》
彼が話しながら、メモにそう書いてくれた。
『パパ、でんわだれから?』
『ねぇ、パパ』
何やら電話の向こう側が騒々しい。うちと一緒だ。
『ごめんな、五月蝿くて』
「うちも似たようなものだよ。賑やかなくらいがちょうどいいかも知れない」
『だな』
信孝は、誰にでも分け隔てなく平等に接するから、友人が多いんだ。みんなに頼りにされる兄貴肌で面倒見もいい。俺も随分と可愛がってもらったんだって彼が話してくれた。
『晴、未来!!パパのスマホ……』
そこで一旦電話が切れたけど、すぐにまた掛かってきた。
「未知、ナオが話したいって。喋れないことは言ってあるから」
彼にそう言われいきなりスマホをぽんと渡された。ドキドキしながら耳にあてると。
『未知さん……はじめまして……えっと……ナオです』
彼もガチガチに緊張していた。
『はじめまして、はるです‼』
『おにいちゃんばっかずるい‼みくだよ』
『ちょっと二人とも。ママがお話ししているんだから、少しは大人しくしてて』
電話の向こう側の光景が目に浮かぶようでおかしかった。うちと同じでやんちゃな男の子が二人もいるんだもの。電話の取り合いをする三人のやり取りがこれまたおかしくて。思わず吹き出すと、彼も一緒に笑ってくれた。
『ごめんね、五月蝿くて。明日にでもこっちで生活出来るように準備はしてあるから。いつでも引っ越してきていいよ』
【ナオさん、ありがとう】
何気ない気遣い、そして優しさが心に沁みる。
彼にスマホを返すと、なぜか不機嫌そうに、むすっとして不貞腐れていた。
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