226 / 3269

番外編 縣家の嫁

「龍成、お前を騙したのは恐らくカレンだろう。男心も女心も両方分かるから、手玉に取るのも造作もないこと。お前は少し世間知らずなところがあるから、だからいとも簡単に騙されたんだ」 ずっと押し黙っていた彼がようやく口を開けた。それを聞いた光希さんが裕貴さんのもとに歩み寄った。 「一つお願いが……」 「へ!?俺?」 まさか光希さんに声を掛けられるとは思ってもみなかったのだろう。素っ頓狂な声を上げた。 「龍を、そちらの組の部屋住みとして、一からみっちり仕込み直して欲しいんです」 「おい光希‼」 慌てて遼成さんが止めに入った。 「遼は黙ってて。キッチリ落とし前を付けないと、龍の為にならない。やっぱり龍一家の三男坊はボンクラだ、甘ちゃんだ、そう揶揄され笑い者にされるだけ、そうでしょ?」 「……分かったよ、光希の好きなようにすればいい。裕貴、俺からも頼む」 遼成さんも奥さんには頭があがらないみたい。絶対それだけは嫌だ!と喚く龍成さんの頭に手を置いて無理やり頭を下げさせた。 「部屋住みっていうのは、組事務所や組長の自宅に起居して、炊事、掃除、電話当番、客の応対まで、新入りがヤクザのイロハを一からみっちり覚えていく。まぁ修行みたいなもんだ。うちの実家にいる若い衆の連中もみな部屋住みだ。龍成は今までそういった苦労をしたことがないから、お灸を据えるにはいいかも知れないな」 彼も光希さんが決めたことに異論は唱えなかった。 「根岸、そういう訳だ。お前に預ける」 廊下に控えている根岸さんに声を掛けると、颯人さんを伴って中に入ってきた。 「みっちりしごいて構わない。縣一家の三男坊だからといって手加減する必要はない」 「分かりました、カシラ」 裕貴さんは次期組長として著しい成長を遂げている。顔付きもだいぶ変わったかも。男らしさに更に磨きをかけ、毅然としていた。 凛々しい裕貴さんのこの姿、心さんにも見せてあげたいな。 きっと見惚れて、惚れ直すに違いない。 なんて思っていたら、彼に怒られた。 裕貴ばかり見すぎだ‼って・・・焼きもちを妬かれてしまった。

ともだちにシェアしよう!