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番外編 橘さんの結婚

リングケースには見向きもせず、柚原さんを無表情で見詰める橘さん。 「そんなに睨むなよ。可愛い顔が台無しだ」 「私のどこが可愛いんですか」 「どこって……相変わらず手厳しいな。俺はただ橘の尻に敷かれたいだけだ。裕貴や笹原みたくな」 しれっと悪びれる様子もなく答える柚原さん。まるで悪戯好きのワルガキみたい。 「あなたっていう人は……」 口では絶対負けない橘さんが、柚原さんに圧され、たじたじになっていた。 「橘……いや、優璃。頼むから、俺と一緒になってくれ……じゃない、なってください」 舌を噛みそうになりながらも懸命に自分の想いを伝え、深々と頭を下げた。 「橘、いい加減諦めろ」 「そうだ、そうだ」 周りからの野次に一切動じることなく、柚原さんを静かに見下ろす橘さん。 ゆっくりとした語り口で、自分の想いを言葉に乗せた。 「毎年七夕の日に必ず結婚指輪を送り付けてきて、返品不可、いらないなら処分しろって……この指輪一つ幾らするか疎い私にでも分かります。ロイヤルの称号を授けられた唯一無二のダイヤモンドジュエラー。世界的に有名な老舗のブランドの特注品で、一つ三十万はするはずです。それを五年間ずっと……今年は送って来かったからようやく諦めてくれたんだと、てっきりそう思い込んでいました」 「八月にこっちに引っ越すと遥琉やオヤジから聞いて。こういうものは直接渡した方がいいだろう」 顔を上げニヤリと笑う柚原さん。 「あなたっていう人は……本当にバカな人です」 「だって、誰よりも優璃が好きなんだ。仕方ないだろ。この五年、諦めようと思ったことは一度ない。遥琉が好きでもいい。未知が好きでもいい。遥香のママでいていいから、俺のこと好きになってくれ」

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