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番外編 襲名式

「そう睨むな、可愛い顔が台無しだ」 頬っぺたをこれでもかと膨らませていたら、腕が背中に回ってきて、広い胸に抱き寄せられた。 「一太、遥香、ごめんな。カタギになればごく普通の生活が送れるって思っていたのに二人を巻き込んでしまって……危ない目に遭わせてごめんな。怖い思いをたくさんさせてごめんな。未知もごめんな。やっぱり俺は龍一家の次男坊。普通の生活を送るなど無理だったのかも知れない」 【そんなことない】 首を横に何度も振った。 遥琉さんが側にいてくれればそれだけで僕は幸せだもの。 一太と遥香と、橘さんと柚原さんと。 みんな側にいてくれるもの。 「ママは泣き虫だな」 彼に言われて、自分が泣いていることに初めて気が付いた。 「俺が現役に戻る決意をしたのは、度会さんや橘に言われたからじゃない。未知や一太や遥香………それにベビハルたちを守る為だ。未知、慣れるまで大変かも知れないが、今は体調を最優先にして、出来ることから少しずつはじめればいい。そのために、千里が笹原を説得してここに残ることにしたんだから………」 温かなぬくもりに溢れた彼の大きな手が髪をそっと撫でてくれた。 それがすっごく嬉しくて。 一度は止まったはずの涙がまた零れてきた。 「遥琉、そろそろ始まるわよ」 五つ紋が入った色留袖に身を包んだ千里さんがしずしずと入ってきた。 「千里、その格好………」 橘さんが目を丸くし思わず二度三度見していた。 「紫さんが着せてくれたの。どうせ馬子にも衣装って言いたいんでしょお兄ちゃん。アタシだってこう見えてもれっきとした女の子よ」 「そうだったな………えっと……」 橘さん、千里さんにどう言葉を返していいか、かなり迷っていた。

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