315 / 3581

番外編 襲名式

「兄貴」 弓削さんら幹部の皆さんが彼を迎えに来てくれた。 「じゃあ行ってくる。一太、遥香、ママと橘の言うことを聞いてお利口さんにして待ってるんだぞ」 「はぁ~い」 「うん‼」 二人の頭を撫でてから一つ深呼吸をし、緊張した面持ちで千里さんと柚原さん、弓削さんらと共に広間へ向かった。 凛々しいその後ろ姿が見えなくなるまで二人の手を握り締め見送った。 「一太、ハルちゃん、おやつにしましょうね」 紫さんがアップルパイを運んできてくれた。 「わぁ~い‼」 「おいちそう」 二人とも紫さん手作りのアップルパイが大好きだから飛び上がるくらい大喜びしていた。 「千里さんはあの通り姉御肌で面倒見がいいから、ゆくゆくは昇龍会の組長になるかも知れないわね」 むしゃむしゃと笑顔で頬張る二人を目を細めて眺めていた紫さんが急にそんなことを言い出したから驚いた。 「紫さん、それはないですよ」 「そうかしら!?見た目は派手で目のやり場に困るくらい奇抜な格好をしているけど、誰よりも努力家で勉強熱心で………未知たちが万一襲われた時のために銃の扱い方を教えてくれって度会に頭を下げたのよあの娘《こ》。根はすごく真面目でいい娘《こ》よ。だから、あの色留袖を仕立ててプレゼントしたのよ。度会も柚原も言ってたわ。いずれ、昇龍会のトップに登り詰めるだろうって」 「そんなことを言ってたんですか……」 説得力のある言葉に滅多なことでは動じない橘さんが珍しく戸惑っていた。

ともだちにシェアしよう!