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番外編 九鬼の悴

「ほっといて大丈夫ですよ。和泉さんの包帯を替える方が先です」 「そう、ほっとけ」 橘さんと柚原さんに言われ、奥の当直室に向かった。アパートの部屋より若干狭いものの、空調が効いていて、大きい窓からは秋の涼しげな風と共に明るい陽の光が射し込んでいた。 「何か落ち着かなくて」 真新しい真っ白なシーツに横臥していた和泉さんがそわそわしながら苦笑いを浮かべていた。 「よそ者の俺にみな優しくしてくれる。未知のお陰だな。ありがとう」 【僕は別に何もしてないよ】 首を一度横に振り、和泉さんの背中を支えながら体をゆっくりと起こした。ボタンを一つずつ外しシャツをそっと脱がせ、首の根元から腕の付け根までぐるぐると巻いていた包帯を慎重に外し、傷口を消毒し新しい包帯を静かに巻いた。 「未知は可愛いからいいけど、俺なんか全然可愛い気ないし、顔もこの通りボコボコで………会ったら絶対鷲崎さんに嫌われる。あ~どうしよう」 快方に向かえば向かうほど、悩みの種も増えるみたい。 目まぐるしく変わる和泉さんの表情を見ているだけでも面白くて。 吹き出しそうになるのをぐっと堪えた。 「お前らイチャつきすぎだ」 ぶつぶつと文句を言いながら鳥飼さんが姿を現した。 「未知は俺のだ。気安く触るな」 僅かに空いた隙間に潜り込んできて、膝の上に頭を乗せそのままゴロンと横になってしまった。 「鳥飼さん、未知には・・・」 和泉さんが肩で大きくため息をついた。何を言っても馬に念仏だもの。諦めるしかない。 【僕は大丈夫。別に変なことされている訳じゃないから】 腕を伸ばし和泉さんにシャツを着せてあげた。

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