364 / 3593

番外編 九鬼の倅

困ったことに九条組の組事務所に移るまで丸二日。寝るとき以外、鳥飼さんは僕の側から片時も離れようとはしなかった。橘さんや柚原さんに何を言われようが一切聞く耳を持たなかった。 駅前の繁華街の一角に九条組の組事務所があった。《九条コンサルティング株式会社》として、オフィスビルの一階にテナントとして入っていた。 まだ動くことが出来ない和泉さんを布団ごと包み、大人四人がかりで車で移動して来たものはいいものの、なぜか鳥飼さんまで付いてきたから、九条組の幹部の皆さんは一様に眉を潜め、怪訝そうな表情を浮かべた。 「鳥飼‼何でてめぇがここにいるんだよ‼」 一人の若い舎弟さんが顔色を変え鳥飼さんに食って掛かった。 相手はあの九鬼総業の若頭。 「(あつし)止めんか」 「待てや!」 皆さん血相を変えて慌てて引き剥がそうとしたけれど、彼はそれを振り切って胸ぐらに掴み掛かった。 「相変わらず威勢がいいな」 「五月蝿い!」 その舎弟さんは僕とあまり年が変わらないかも。襟足で短めに揃えた黒髪に整った目鼻立ちをしていた。 「鼻っ柱が強いのは姉譲りだな」 「黙れ!」 自分よりも一回りも二回りも年上の鳥飼さんに噛み付く舎弟さん。 回りの幹部さんたちの方がヒヤヒヤしていた。 【橘さん】袖を掴みツンツンと引っ張った。

ともだちにシェアしよう!