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番外編 彼の元婚約者
「隣、いいか?」
いちいち聞かなくてもいいのに。
うん、頷くと「良かった」そんなことを口にしながら隣に腰を下ろしてきた。
「心望、ごめんな。だらしないパパで、本当に面目ない」
彼が謝りながら、その小さく柔らかな手に指をそっと絡めると、笑顔でぎゅっと強く握り返してくれたみたいで、
「心望~~パパ嬉しいよ~~」
その瞬間彼の表情が緩みっぱなしになり、いつのようにデレデレになってしまった。
「那奈と結婚する前、数週間だけ彼女と婚約していた。彼女は湍水組の組長の娘で、九鬼とは母違いの実の妹だ。敵対関係にあった龍一家と同盟を結ぶため俺と無理矢理婚約させられたんだ。でも彼女には吉崎という当時付き合っていた男がいた」
心望にふと目を落とす彼。健気にもずっと指を握り締め続けている愛娘に目を細めた。
「別れることにどうしても納得がいかなかった吉崎は、咲にしつこく付きまとうようになった。実家がヤクザと知るなり警察は咲を門前払いにし、ろくに取り合おうとしなかった。そしてそんな中事件が起きた。吉崎が咲を連れ去ってそのまま1ヶ月にも渡り監禁したんだ。俺や湍水組の部屋住みの連中と四方八方手を尽くして探し回った。やっと見付けた時、彼女はクスリ漬けにさせられ吉崎の子供を妊娠していた」
そこで言葉を止めると、苦しそうに顔を歪め、目を静かに閉じた。
「遥琉には裕貴さんの他に悪友がもう一人いましてね」
ベランダで柚原さんと痴話喧嘩をしていた橘さんがやれやれとため息をつきながら戻ってきた。
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