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番外編 彼の元婚約者

「それが咲の旦那の、悠《はる》だ。お前に咲は勿体ない、俺に譲ってくれって、会うたび言われてな、大変だったんだ」 「例え身分や立場が違くても、咲さんを誰よりも愛していたのでしょうね。だから、事件後咲さんを献身的に看病し、支え、そして更正させたんです。咲さんと結婚し、産まれた子供を自分の子供として育てたんです。名前の呼び方も一緒なら、生き方も一緒。家族思いで愛妻家で………」 橘さんがにっこりと微笑んで、心望の頭を優しく撫でてくれた。 「あまりの仲の良さに、私も咲さんもどれだけ焼きもちを妬いたことか」 表情一つ変えることなく、淡々と発したまさかの一言に、彼の笑顔が凍り付いた。 「はぁ?そんなの初めて聞いたぞ」 「だってそんなこと、怖くて面と向かって言える訳がないでしょう。ねぇ、ここちゃん」 橘さんが心望の名前を呼ぶとニコニコと笑みが零れた。 「橘が変なことを言い出すから何を言うか忘れただろう。真沙哉は言葉巧みに湍水に近付いた。咲が言うにはもう昔の優しい彼はどこにもいない。真沙哉の意のままに動く操り人形だと」 上唇を噛み締め悔しさを滲ませる彼を見る橘さんもまたやるせなさを滲ませていた。 「真沙哉と決着をつけてくる。湍水や咲のためじゃない。未知や子供たち、組のみんなを守るためだ、分かってくれ」 肩に手を静かに置き、真剣な眼差しで瞳を覗き込まれた。

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