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番外編 底無しの憎悪の刃
「未知さん大丈夫ですか?」
「マ―?」
肩を軽く揺さぶられてハッとして我に返った。
「本当は……生まれてきちゃいけない子だったんだ……」
やっと思い出した。
僕がいたから、お兄ちゃんも彩さんも不幸になった。
僕みたいな気色悪い厄介者がいたから家族がバラバラになったんだ。
みんな僕のせい。僕が悪いんだ。
「橘さん、琥珀さん……」心配そうに顔を覗き込む二人を見上げた。
「昔の事を思い出したんですね」
橘さんの指が目蓋の縁に溜まった涙をそっと拭ってくれて。泣いていることに初めて気が付いた。
「みんなお利口さんに寝てますから、泣きたいだけ泣いて下さい。私も琥珀さんもとことん付き合いますよ」
「マ―大丈夫。側にいる」
橘さんも琥珀さんもなんでそんなに優しくしてくれるの?
そんなに優しくされたら涙が止まらなくなるのに。
鼻を啜りながら頷くと、温かな二人の腕の中にすっぽりと包み込まれた。
彩さんごめんなさい。不幸にさせて、辛い思いをさせて。
僕がいなかったら、今頃お兄ちゃんと、産まれてくるはずだった子供と三人で穏やかな生活を送っていたのに。
駄々を捏ねる子供をあやすかのように頭を優しく撫でてくれる二人の腕にしがみつき声を上げて泣いた。
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